研究課題
海洋植物プランクトンは、形態や生理機能が異なる多様な種が同一環境に共存し、極めて高い多様性を維持している。近年の遺伝子解析基盤技術の発展とその環境調査への応用により、海洋に存在する微生物の多様性やゲノムに関する情報は増加の一途を辿っている。一方で、植物プランクトンの多様性が生態系機能に及ぼす影響は知見が乏しく、特に実験によって直接的に定量化した例は皆無である。本研究は、植物プランクトンの多種共存が群集の多機能性と生産力に与える効果を定量化し、多様性の生態学的意義を明らかにすることを目的とする。過去の観測で得られた群集データをもとに合理的な疑似群集を設計し、培養実験によって人為的に多様性を創出することでその定量化を試みる。2020年度は、2019年度に高知県浦ノ内湾から単離した藻類のゲノム配列を決定するため、ロングリードシーケンスによるDNA配列解析を実施した。高純度のDNA抽出法およびバイオインフォマティクスパイプラインの開発を行い、単離した藻類の数株において高品質なドラフトゲノム配列を得ることができた。また、過去の現場観測から得た18S rRNAアンプリコンデータの再解析を実施し、植物プランクトン間の相互作用を推定した。このデータに基づいて培養実験を設計し、単培養と混合培養で計6系統の室内培養実験を実施した。その結果、現場観測と整合性のある「多様性効果」を強く示唆する結果が観察された。現在、トランスクリプトーム解析による遺伝子転写活性の評価など、関連する試料の分析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
2020年度に計画していた培養実験を予定通り遂行し、予備的な分析の結果、期待する現象を観察することができた。また、詳細な化学・生物学パラメータについても予定通りに分析を進め、次年度前半中に完了する目処が立っている。一方で、コロナ騒動により試料分析のために予定していた出張が制限されたことにより、当初よりも多くの試料で外注に頼らざるを得なくなった。これによって増大した分析のコストを調整するため、培養実験のスケールを若干縮小した。以上の状況を踏まえ、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
培養実験で採取した試料の分析を2021年度前半期中に完了させる。得られた結果を化学および生物学的視点から考察した上で、学術論文および国内外の研究集会で発表する。また、ゲノムDNA配列や転写プロファイルなどの一次情報はGenBank等の公共データベースを介して公表する。
新型コロナウイルスの感染拡大により予定していた出張を取りやめたため、使用額に変更が生じた。この分の経費については、次年度に延期した旅費として使用する予定である。また、2020年度中に消耗品やシーケンスの受託分析を行う予定であったが、メーカーの在庫不足やそれにともなう実験の遅延が生じ、発注・受注を見送った。これらについても、2021年度に同様の内容で経費を使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
iScience
巻: 24 ページ: 102002~102002
10.1016/j.isci.2020.102002
Nature Ecology & Evolution
巻: 4 ページ: 1639~1649
10.1038/s41559-020-01288-w
bioAxiv
巻: なし
10.1101/2020.10.16.342030