研究課題/領域番号 |
19K15896
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
川井田 俊 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 助教 (60743581)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 塩性湿地 / 底生動物 / 群集構造 / 餌環境 / 立体構造 / 成長率 / 安定同位体比 / 野外操作実験 |
研究実績の概要 |
耐塩性の抽水植物が生育する塩性湿地には多くの底生動物(以下,ベントス)が生息し,様々な生態系機能を有する重要な場所であると言われている。しかし,塩性湿地がベントスの生息場(たとえば餌場や隠れ家,避難場)としてどのように機能しているのかということを直接検証した例はまだまったくない。このような中,本研究は,ベントスを対象とした多角的な野外実験(飼育実験・構造物実験・捕食圧実験)を行うことによって,ベントスの生息場としての塩性湿地の機能を総合的に評価することを目的としている。 本年度は,ベントスの餌場としての塩性湿地の機能を評価するための野外飼育実験を行った。実験は,ヨシを中心とした塩性湿地が卓越する三重県の田中川河口域において,ベントスの活動が活発となる7月から9月にかけて行った。本河口域で個体数が多く,塩性湿地と裸地干潟の両生息場所に棲むカニ類のチゴガニと巻貝類のフトヘナタリを実験対象とした。塩性湿地と干潟に50cm四方のケージを設置し,それぞれのケージにほぼ同サイズのチゴガニを5個体,フトヘナタリを約20個体加え,チゴガニは1ヶ月,フトヘナタリは2ヶ月放置した後に各個体の成長率を調べた。また,炭素・窒素安定同位体比分析と堆積物の有機物量測定を行い,塩性湿地と干潟間で両種の食性や餌環境が異なるかどうかを調べた。 その結果,チゴガニの成長率は干潟と塩性湿地でそれぞれ19%と18%で,両生息場所間でほとんど違いはみられなかった。その一方で,フトヘナタリの成長率は干潟(21%)よりも塩性湿地(35%)で高かった。また,干潟に比べて塩性湿地にはヨシ由来有機物が多く,後者に生息するフトヘナタリはそれらの有機物を同化していることが示唆された。これらのことから,ヨシ由来有機物が豊富に存在する塩性湿地は一部のベントスの成長に好適であり,重要な餌場となっている可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
三重県田中川河口域の塩性湿地と干潟において,ベントスを対象とした野外飼育実験・食性解析と餌環境調査を予定通り実施することができたため,本年度の目的はおおむね達成できたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究により,塩性湿地は一部のベントスにとって重要な餌場として機能している可能性が示された。来年度は,塩性湿地がベントスにとって捕食者からの隠れ家や高温・乾燥ストレスといった厳しい環境からの避難場となっているかどうかを明らかにするための野外操作実験を行う予定である。
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