研究課題/領域番号 |
19K15896
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
川井田 俊 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 助教 (60743581)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 塩性湿地 / 底生動物 / 群集構造 / 餌環境 / 立体構造 / 成長率 / 安定同位体比 / セルロース分解酵素 |
研究実績の概要 |
耐塩性の抽水植物が生育する塩性湿地には多くの底生動物(以下,ベントス)が生息し,様々な生態系機能を有する重要な場所であると言われている。しかし,塩性湿地がベントスの生息場(たとえば餌場や隠れ家,避難場)としてどのように機能しているのかということを直接検証した例はまだまったくない。このような中,本研究は,ベントスを対象とした多角的な野外実験(飼育実験・構造物実験・捕食圧実験)を行うことによって,ベントスの生息場としての塩性湿地の機能を総合的に評価することを目的としている。 本年度は,塩性湿地がベントスにとって捕食者からの隠れ家や高温・乾燥ストレスといった厳しい環境からの避難場となっているかどうかを明らかにするための野外操作実験を行う予定であった。しかし,新型コロナウイルス感染拡大により,三重県の調査地での野外実験を開始することができなかった。その一方で,別の調査地で既に開始していた補完的な野外実験においては,裸地干潟に設置した園芸パイプ(塩生植物のヨシの茎を再現している)の実験区に,塩性湿地に特有のベンケイガニ類やカワザンショウ類が出現することがわかった。このことから,塩性湿地における立体構造物の存在がベントスの隠れ家となっている可能性が示された。 また,前年度に採集・食性解析を行ったチゴガニとフトヘナタリに加え,他のカニ類と巻貝類について炭素・窒素安定同位体比とセルロース分解酵素活性の分析を行った。その結果,塩性湿地に多く生息するアカテガニなどのベンケイガニ類やヒラドカワザンショウが高いセルロース分解能をもち,ヨシ由来有機物を同化していることがわかった。このことから,塩性湿地がベントスの餌場として機能していることが裏付けられた。 以上のことから,塩性湿地の隠れ家・餌場としての複合的な機能がベントスの多様性を維持するうえで重要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響により,予定していた野外操作実験を実施することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響により,県外への調査出張が円滑にできるかどうかの見通しは不透明である。そのため今後は, 2021年度に実施できなかった2種類の野外実験(捕食圧実験と構造物実験)のうち,本研究課題を完遂するうえで重要度の高い構造物実験を最優先事項とし,限られた研究期間の中で最大限の成果が得られるように研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大により,予定していた野外実験を実施することができなかったため,旅費として計上していた予算を当該年度に使用しなかった。今後は,社会情勢を踏まえつつ,野外実験が実施できる状況となり次第,該当予算を充当する予定である。
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