今年度は、①光の波長と強度がマガキ幼生の走光性に与える影響と②光照射が付着生物の分布に与える影響、これらの2つのテーマについて研究を行った。 昨年度の研究成果であるマガキ幼生の付着行動に与える光の波長と強度の影響に基づき、今年度はそれぞれの光条件がマガキ幼生の走光性に与える影響を調べた。マガキ幼生は、付着期に入ると眼点を持つため、この眼点が着底水深の探索にも機能するのではないかと考え観察を行った。その結果、マガキ幼生は光の波長と強度により異なる走光性のパターンを示し、そのパターンは付着行動と同様、眼点の吸光度と密接に関連していることが分かった。得られた結果を基に出現した眼点がマガキ幼生の着底から付着までの過程においてどのような役割を果たしているのか解釈して、眼点の吸光度と光環境の相互作用について現在投稿準備中である。これらの生物試験結果を基に、代謝、環境ストレス、付着行動関連遺伝子の発現量を調べて、分子生物学的メカニズムを明らかにしている段階である。今年度は、レファレンス遺伝子の発現量分析が不安定だったため、再実行する必要がある。 また、昨年度までの室内実験でマガキやフジツボ幼生の付着行動において著しい影響が観察された光環境を用いて、実海域(長崎県西彼杵郡時津町西時津郷、大村湾、32°86’N、129°85’E)で実証試験を行った。付着行動を抑制する青色光と誘導する赤色光の異なる強度のLEDを2週間または4週間照射して、付着した生物の分布を調査した。種同定や乾燥重量の測定を行い、それぞれの光照射の影響を分析した結果、室内実験と同様なパターンが観察された。これらの結果に基づき、LED照射を用いた防汚システムの構築や採苗技術の向上が可能であると考えられる。結果の詳細は、今後特許申請の可能性があるため省略する。
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