研究課題/領域番号 |
19K15899
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
阿部 博和 岩手医科大学, 教養教育センター, 助教 (10784192)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 海産環形動物 / 貝類養殖 / スピオ科 / 穿孔性多毛類 / 分子系統 / ミトゲノム / 発現遺伝子 |
研究実績の概要 |
本研究は,貝類養殖における害虫多毛類(穿孔性多毛類)における「宿主に対する幼生の誘引・着底」と「穿孔」のメカニズムの解明と,そのような仕組みが発達してきた「進化的プロセス」の理解を目指すものである。 今年度は,昨年度分析を行った15属62種における18Sと16S rRNAの2遺伝子領域の塩基配列をもとに,穿孔性多毛類を含むスピオ科で初めてとなる分子系統解析の成果を論文として報告した。同時に,新たにスピオ科4属4種のミトゲノム全長配列を取得し,昨年度取得したものと合わせて7属8種のスピオ科のミトゲノム解析を行った。昨年度の結果では,Nerininae亜科のPrionospio属では環形動物の多くの系統で保存されているミトゲノムの遺伝子配置と一致したのに対し,Spioninae亜科Polydorini族のPolydora属とPseudopolydora属では大きく異なる遺伝子配置が発見された。今年度の結果では,Polydorini族のBoccardiella属ではPolydora属とPseudopolydora属と同じ遺伝子配置が,Spioninae亜科のSpio属とNerininae亜科のMalacoceros属,Scolelepis属ではPrionospio属と同じ遺伝子配置が確認されたことから,ミトゲノム遺伝子の再配置はSpioninae亜科ではなくPolydorini族の祖先系統で生じたものと判断された。この成果はPolydorini族の単系統性を強く裏付けるものであり,スピオ科ではPolydorini族内でのみ共生性や穿孔性などの特殊な生活様式が獲得されてきた事が明らかとなった。また,今年度は幼生の宿主への誘引,着底と穿孔のメカニズムを明らかにするための実験を行う際に必要となるスピオ科浮遊幼生の形態的特徴の情報をまとめ,各種の同定手法を開発し,論文として発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「穿孔性多毛類の進化的プロセスの理解」については,当初の計画通り科内で網羅的に塩基配列を取得することに成功しており,スピオ科内の各分類群の系統関係の理解や穿孔性の獲得に至るプロセスが把握され,スピオ科で初めてとなる分子系統解析の論文を発表することができた。しかしながら,その次の段階として今年度計画していた「異なる生活様式を示すスピオ科の近縁種の幼生と成体を材料にした全転写産物(mRNA)の網羅的な発現量の定量比較(RNA-seq)による幼生の誘引・着底に関わる嗅覚受容体と酸分泌タンパク質の探索」については,昨今のコロナ禍のなかで必要なサンプルを取得するための調査出張を行うことができず,予定していたRNA-seqを行えないままでいる。そのため,今年度は当初の計画の範囲からは若干逸脱するが,スピオ科幼生の同定手法の開発と,これまで知られていない新たな宿主(ミドリシャミセンガイ)と共生するスピオ科多毛類1種の新種記載の研究を進め,本研究テーマの発展につながる成果を得た。とはいえ,本来の計画にはコロナ禍の影響による計画の延期があったため,進捗は「遅れている」と言わざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍の影響で必要なサンプル取得ができずに今年度計画していた実験が行えなかった「異なる生活様式を示すスピオ科の近縁種の幼生と成体を材料にした全転写産物(mRNA)の網羅的な発現量の定量比較(RNA-seq)による幼生の誘引・着底に関わる嗅覚受容体と酸分泌タンパク質の探索」については,そのまま次年度に持ち越すことになった。最終年度である次年度に行う予定であった「嗅覚受容体の阻害薬を用いた幼生の着底実験による誘引・着底に機能する嗅覚受容体の特定」と「ウェスタンブロットとWhole mount免疫染色を用いた,異なる生活様式を示す種間での酸分泌タンパク質の発現量と生体内局在を比較」については,実験を行うためにRNA-seqにより得られる情報が必要不可欠であり,最終年度までに行うことが不可能となった。そのため,本研究課題では,来年度にRNA-seqをより充実した形で進めることで,今後の研究テーマの発展のための基盤を形成することに重点をおきつつ当初の目標を部分的に達成する推進方策をとる計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度計画していた「異なる生活様式を示すスピオ科の近縁種の幼生と成体を材料にした全転写産物(mRNA)の網羅的な発現量の定量比較(RNA-seq)による幼生の誘引・着底に関わる嗅覚受容体と酸分泌タンパク質の探索」については,コロナ禍の影響で必要なサンプル取得ができずに実験が行えなかったことから,当該実験とそれに係る費用を次年度に持ち越すことになったため。
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