本研究は,貝類養殖における害虫多毛類(穿孔性多毛類)における「宿主に対する幼生の誘引・着底」と「穿孔」のメカニズムの解明と,そのような仕組みが発達してきた「進化的プロセス」の理解を目指すものである。 本研究では,穿孔性の他,間隙性,共生性,埋在性など多様な生活様式を示すスピオ科多毛類15属62種における18S,16S rRNAの2遺伝子領域の塩基配列を取得し,スピオ科で初となる分子系統解析の成果を論文として報告した。同時に,7属8種のミトゲノム全長配列を取得し,ミトゲノムの遺伝子配置がNerininae亜科のPrionospio属,Malacoceros属,Scolelepis属とSpioninae亜科のSpio属では環形動物の多くの系統で保存されているものと一致するのに対し,Spioninae亜科Polydorini族のPolydora属,Pseudopolydora属,Boccardiella属では大きく異なることを明らかとした。これらの結果から,Polydorini族の単系統性が強く裏付けられ,スピオ科ではPolydorini族内で共生性や穿孔性などの特殊な生活様式が獲得されてきた事が明らかとなった。また,Polydorini族との類縁性が指摘されていたものの系統的位置が不明なままであったAtherospio属の種を国内から発見し,新種として記載するとともに,分子系統解析によりPolydorini族との近縁性を否定した。さらに,これまで知られていない宿主(ミドリシャミセンガイ,ホヤ類)と共生するスピオ科多毛類の2種を発見し新種として記載した。 最終年度は,幼生の宿主への誘引の際に機能する嗅覚受容体の探索と,穿孔メカニズムの推定のために,3属4種の成体と幼生で発現遺伝子解析を行った。
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