研究実績の概要 |
川や湖で一定の体サイズ以上に成長したウナギは、秋に銀化して産卵回遊を開始する。回遊を開始する体サイズと年齢は個体変異に富み、どんな生態学的条件を満たした個体が、どのような生理学的プロセスを経て、春機発動・銀化・回遊開始に至るかは明らかでない。2019年度までに実施した大型野外実験池における標識再捕実験により、秋から初冬にかけて銀化する個体は、銀化しない個体に比べて夏季の時点で既に卵径が大きく、春機発動していることが示唆された。これは、「銀化・春機発動・回遊行動開始の3つは秋から初冬にかけてほぼ同期的に生じる」という従来の考えを覆すものであった。 上記の結果を踏まえ、2020年8月に宮崎県の都農町から延岡市にかけての小河川において、電気ショッカーを用いて雌のニホンウナギ40個体 (全長508-810 mm、体重156-837 g) を採集した。これら40個体は最大卵群卵径が大きいグループ (150.2-199.2 μm、7個体) と小さいグループ (69.7-130.0 μm、33個体) に明瞭に分かれたことから、前者を銀化予定個体、後者を残留予定個体とみなした。2022年度は、銀化予定個体と残留予定個体の耳石を用いた年齢査定と成長解析を実施した。銀化予定個体 (全長632.3±82.9, 545-810 mm) の年齢は12.3±1.4、10-14歳、残留予定個体 (全長579.8±45.6, 508-709 mm) は11.2±1.8、7-16歳であった。年成長速度を比較したところ、銀化予定個体は47.2±8.8、34.6-62.5 mm/年、残留予定個体は47.3±7.1、36.3-68.3 mm/年であり、群間に有意差は無かった。
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