研究課題/領域番号 |
19K15901
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研究機関 | 沖縄科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
杉本 親要 沖縄科学技術大学院大学, 分子遺伝学ユニット, 研究員 (00813718)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ダンゴイカ / 高次認知能 / コミュニケーション / 空間認知 |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度に引き続きダンゴイカ類の高次認知能について、コミュニケーション能と空間認知能に着目した評価のための行動観察を進めた。統計的に十分な量のデータ数を確保するため、多くの実験個体に対して行動観察を繰り返す必要性から、高次認知能評価のための実験区を複数用意し、複数実験個体の行動観察を同時に行うことのできる装置を準備した。その際、昨年度実験に使用した光ファイバーを用いた光信号提示装置では、装置間で提示光源の質にばらつきが生じる可能性が新たに見出された。そのため、光ファイバーではなく、LED光源の前に小さな穴を複数開けた黒色プレートを設置し、穴からのみ光が出る装置に改良した。複数の小さな穴は、昨年と同様マル型もしくはバツ型に並べ、図形パターンの違いおよび点滅パターンの違いを実験個体に提示できるようにした。 昨年度は気候条件などの理由により、計画段階で想定していた種の準備が困難であったため代替種で実験を行なった。本年度は予定種を準備できたが、昨年度の行動データが代替種のものであり、新たな装置で正しく行動評価が行えるのか代替種を通して確認する必要があったことから、予定種と代替種の両方で行動観察を実施した。また、LED光源の点滅パターン(点滅あり・なし)および図形パターン(マル・バツ型)と潜砂行動(砂に潜る行動)の連合学習を調べることに加え、マル型と信号なしの組合せを新たに追加することで、LED光源そのものの信号としての有効性を検証し、本実験手法の妥当性を確かめた。 予定種および代替種のダンゴイカ類は、両者共に全ての信号の組合せについて連合学習の成立の可能性を示した。また、正しい信号に辿りつくための試行錯誤の多寡や学習速度が個体により顕著に異なる様子が捉えられたことから、今後計画通りに遺伝子解析を進めることで、行動の遺伝的背景解明が進むことが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の始めに、予定種のダンゴイカ類を入手することができた。研究計画上、同一個体の行動を経時的に追跡する必要性から、通常の不透明な塩ビパイプで作製した個別飼育水槽において1個体ずつ飼育を開始した。しかし、飼育期間中に、複数の実験個体が死亡する問題が発生した。問題なく健康に成長する個体も複数いたことから、水質などの基本的な飼育条件に原因があるのではなく、個別に飼育していることのストレスが原因である可能性が示唆された。そのため、透明な塩ビパイプにより新たな個別水槽を準備し、他個体を視認可能な飼育環境に変更した。このことから、継続的な実験個体の飼育が途切れた状態であり、当初の研究計画に遅れが生じている。しかし、新たな予定種のダンゴイカ類を入手済みであり、飼育実験を改めて継続しながら、行動観察と遺伝子解析を順次進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
飼育実験の問題から研究進行に若干の遅れは出ているものの、研究計画通り、予定種のダンゴイカ類を用いた飼育実験、コミュニケーション能および空間認知能に関する行動試験およびDNA採集からRAD-seq解析までの遺伝子解析も順次進めていく。また、コミュニケーション能および空間認知能に関する連合学習実験について、予定種と代替種との種間比較した結果を論文として取りまとめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
飼育実験を進めていた実験個体の想定外の死亡問題に直面し、当初予定していた遺伝子実験を延期したことから、試薬やシーケンス費などに使用予定であった予算を次年度に繰越す必要が生じた。
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