研究課題/領域番号 |
19K15907
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
宇治 利樹 北海道大学, 水産科学研究院, 助教 (00760597)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アマノリ / 植物ホルモン / 1アミノシクロプロパンカルボン酸 / 有性生殖 |
研究実績の概要 |
本研究では、水産重要種であるスサビノリを材料とし、植物ホルモンの1種であるエチレンの前駆物質、1-アミノシクロプロパンカルボン酸(ACC)が本種の有性生殖の制御にどのように関与しているのかを明らかにすることを目的としている。昨年度は、他の生物種で細胞内情報伝達に関与するホスホリパーゼD(PLD)の遺伝子発現と酵素活性が、ACC処理時において上昇することを明らかにした。そこでPLD特異的阻害剤である1-ブタノールを用いてACC応答性の影響を調べたところ、阻害剤処理によってACC応答時に見られる生長の抑制や有性生殖の促進が阻害されることが分かった。これらの阻害効果は、1-ブタノールの異性体であるt-ブタノール処理時には見られなかったことから、PLDを特異的に阻害した結果起きたものと判断された。 またACCシグナル伝達にカルシウムイオンが関与するかどうか調べるために、細胞内のカルシウムイオン濃度変化を検出できる、エクオリンタンパク質を発現させたスサビノリ形質転換体を、パーティクルガン法とハイグロマイシン耐性遺伝子を選択マーカーとして利用することで作出した。さらに哺乳類細胞や植物細胞においてACCがグルタミン酸受容体に結合することが明らかとされているため、スサビノリのグルタミン酸受容体においてもACCの結合活性があるかを調べる実験系の開発を行った。ヒト細胞にエクオリンタンパク質を発現させた株を作出し、ポジティブコントロールとしてヒスタミンを添加した場合に細胞内カルシウムイオンが上昇することを確認した。 さらにスサビノリの有性生殖の促進はACC以外にグリシン処理時にも観察されることを見出していたが、それ以外のアミノ酸として、グルタミン酸、アスパラギン、アスパラギン酸でも起きることを明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究において、スサビノリのACCシグナル伝達系にPLDを介したリン脂質代謝による情報伝達が関与している可能性が明らかとなった。またスサビノリのACC受容体を探索するためのアッセイ系の準備として、カルシウム結合タンパク質であるエクオリンを発現させた動物細胞やスサビノリ形質転換体を作出することができた。さらに他の生物種のグルタミン酸受容体に結合することが知られているアミノ酸であるグルタミン酸などにおいても、ACC処理時と同様に有性生殖の促進が見られることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
スサビノリのACC受容体の候補としてグルタミン酸受容体を考えており、ACCとグルタミン酸受容体の結合性を調べるアッセイ系の開発ができた。今年度は、このアッセイ系を利用し、カルシウムイオンのシグナルを検出することで、スサビノリのグルタミン酸受容体においてACCがリガンドとして働くかどうかを調べる予定である。またACCシグナル伝達系にPLDの情報伝達が重要な役割をしている可能性が考えられたため、PLDの生成物でシグナル分子としての働きが予想されるホスファチジン酸の変動を調べる予定である。ACC処理により発現が誘導される遺伝子としてPLD以外にαオキシダーゼ(αDOX)遺伝子を見出しているため、今後はαDOXを介したオキシリピン代謝についても調べることで、ACCシグナル伝達系の知見を得る予定である。
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