海藻の持続的な生産のためには、これらの繁殖戦略を理解した上で、藻場の保全や増養殖を適切に行っていく必要がある。繁殖が成功するためには、最適なタイミングで生殖することが重要であるため、海藻は外界の環境の変化を感知することで、成長から生殖の転換を厳密に調節していると考えられるが、これらの制御機構は不明である。申請者は、植物ホルモンの1種であるエチレンの前駆物質である1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸(ACC)を水産重要種であるスサビノリに処理することによって、酸化ストレス耐性が付与されると共に有性生殖が促進されることを明らかにしている。またこの応答はエチレンではなく、ACC自体のシグナルによるものである可能性が示唆されている。そこで本研究では、ACCがスサビノリ藻体内において、どのような機構により、酸化ストレス耐性や有性生殖を制御しているのかを明らかにすることを目的とした。 研究の結果、ACCのシグナル伝達経路に、他の生物種で細胞内情報伝達に関与するホスホリパーゼD(PLD) を介したリン脂質代謝による情報伝達が関与している可能性が明らかとなった。また、ACC応答性遺伝子の発現制御機構を調べたところ、DNAのメチル化やヒストンのアセチル化やメチル化といったエピジェネテックな制御がこれらの遺伝子発現の誘導に重要であることが明らかとなった。 本研究期間内にスサビノリのACC受容体を同定することはできなかったが、本種の有性生殖がACC以外にもグルタミン酸、アスパラギン、アスパラギン酸でも促進されることが分かったため、陸上植物と同様にスサビノリでもACCがグルタミン酸受容体を介してシグナルを伝達している可能性が示唆された。
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