魚類は生命活動に係るエネルギー産生をタンパク質の異化に大きく依存しているにも関わらず,飢餓時でも遊泳のために最低限の骨格筋タンパク質量を維持しながら生存できる.本研究では,飢餓時の魚類骨格筋において代謝リプログラミングのためのタンパク質分解が亢進するという仮説について,ペプチドームおよびプロテオームを統合して検証した. 肉食魚類であるカンパチ Seriola dumeriliを試料魚として用い,10日間の絶食飼育試験を行なった.その結果,絶食開始から10日後までコンディションファクターに大きな変化は認められなかった.肝臓重量指数は絶食開始後2日間で急激に減少し,以降は10日目まで緩やかに減少した.次に,絶食飼育を行なったカンパチの普通筋について,ペプチドーム解析およびプロテオーム解析を行なった.定量的ペプチドーム解析の結果からは絶食開始2日目にタンパク質分解が亢進することが示唆され,成長ホルモンの分泌やタンパク質合成に関与するタンパク質が主な被分解タンパク質として同定された.定量的プロテオーム解析の結果からは,絶食期間に応じた解糖系関連酵素群の発現量変動が示された.得られた結果から,カンパチ骨格筋では絶食開始後2日間でタンパク質分解の亢進によるエネルギー代謝系のシフトチェンジが起きる可能性が示唆された.また,カンパチの飢餓適応においては肝臓と骨格筋の間で何らかのシグナル伝達を介した協働があると考えられた.
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