研究実績の概要 |
本研究は、食品衛生上問題となりうる海獣寄生虫の分類学的混乱を解消することを目的として、特に手付かずであった種を対象に成虫の形態および分子系統を精査し、誰もが簡便に種同定できるようになるための分類学的基盤(検索表およびDNAデータベース)を構築する。 研究開始年度である本年は、海棲哺乳類研究者のサポートのもと、日本沿岸に定着・来遊する鰭脚類(トド・キタオットセイ・ゼニガタアザラシ・ゴマフアザラシ・クラカケアザラシ・アゴヒゲアザラシ・ワモンアザラシ)の消化管内寄生虫を可能な限り収集することに努めた。その結果、今後の基盤作りに十分なサンプル入手が実現したため、次年度において本格的な同定・分類作業に入る予定である。 なお、一連の研究活動に伴う副次的成果として、根室海峡にて混獲されたネズミイルカ科2種(ネズミイルカ、イシイルカ)の腸内寄生虫相および寄生レベルを比較した研究成果を国際誌に公表した。また、形態的種判別が有効であることをすでに確認している鉤頭虫類に関しては、特にトドを対象に寄生レベルの定量化を進めることができた。調査の結果、北海道沿岸に来遊するトド個体にはCorynosoma属3種(C. villosum, C. strumosum, C. semerme)が寄生していることが明らかとなり、さらに、最も優占的(全個体の98%)なC. villosumに関しては、宿主あたり平均しておよそ4千個体も重度寄生していることが明らかとなった。この成果については、次年度中に英語論文としてとりまとめ、国際誌への成果報告を目指す。
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