研究課題/領域番号 |
19K15911
|
研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
小山 寛喜 東京海洋大学, 学術研究院, 助教 (20746515)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | D-アスパラギン酸 |
研究実績の概要 |
頭足類の神経系には多量のD-アスパラギン酸が存在し、神経伝達物質としての機能が示唆されている。スルメイカTodarodes pacificusの視神経節では全アスパラギン酸の約50%がD体であることや、マダコOctopus vulgarisの視神経節においては全アスパラギン酸の90%以上がD体であることが明らかとなっている。これらD-アスパラギン酸はアスパラギン酸ラセマーゼと呼ばれる酵素によってL体から生合成されていると考えられているが、アスパラギン酸ラセマーゼ遺伝子は少数の生物においてのみ明らかになっているに過ぎない。 したがって本研究では、頭足類神経系からのアスパラギン酸ラセマーゼ遺伝子クローニングを目的とした。試料として用いたのは、入手のし易さなどの観点からスルメイカの視神経節とした。スルメイカ視神経節からアスパラギン酸ラセマーゼ遺伝子の候補がクローニングされたが、大腸菌などの様々な発現系を用いてリコンビナントタンパク質発現を行ったものの、すべてにおいて活性は得られなかった。したがって、新たなアスパラギン酸ラセマーゼ遺伝子候補の探索が必要と考えられ、発現クローニングを行うことにした。発現クローニングとはスルメイカ視神経節で発現している遺伝子を動物細胞にすべて発現させた後、アスパラギン酸ラセマーゼ活性を追うことで最終的にアスパラギン酸ラセマーゼ遺伝子を単離する方法である。 はじめにスルメイカ視神経節由来のcDNAライブラリー作製を試みた。ライブラリーサイズは最低でも100万クローン必要であるが、実際に作製したところ100万クローンを大きく下回る結果となった。ライブラリー作製方法や条件を変更し何度も作製を試みたが、発現クローニングに充分なサイズのライブラリーを得ることができなかった。今後は使用するベクターの変更や大腸菌による発現クローニングも検討している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
発現クローニングを行うためには、ライブラリーサイズが100万クローン以上のcDNAライブラリーが必要である。したがって、様々な方法を用いてスルメイカ視神経節からcDNAライブラリーの作製を試みたが、充分なサイズのものを作製することができなかった。発現クローニングにおいて重要となるライブラリー作製が完了していないため、当初の研究計画より遅れることとなった。
|
今後の研究の推進方策 |
現在、スルメイカ視神経節由来のcDNAライブラリーを作製中である。発現クローニングには動物細胞を用いる予定であるが、大腸菌を用いた発現クローニングも検討中である。大腸菌を用いる場合は、専用の発現ベクターによりライブラリーを作製し、ベクターを大腸菌に導入後、アスパラギン酸ラセマーゼ活性を追跡する。大腸菌は動物細胞と比較して容易に扱えることや培養時間が短いなどの利点があるため、充分に使える方法であると考えられる。 まず、動物細胞または大腸菌を用いて発現クローニングを行い、アスパラギン酸ラセマーゼ遺伝子の単離を試みる。単離後は、塩基配列の解析を行い、他生物種の各種アミノ酸ラセマーゼとの系統関係を詳細に調べる。さらに、明らかとなった塩基配列をもとに他の頭足類や哺乳類などのアスパラギン酸ラセマーゼ遺伝子同定を試みる。 次に、大腸菌発現により得られたリコンビナントアスパラギン酸ラセマーゼを用いて最適pHや最適温度などを調べ、酵素学的特徴を明らかにする。また、活性中心と予想されるアミノ酸を置換させ、酵素活性にどのような影響が生じるのかを調べ、酵素活性に重要なアミノ酸残基を特定する。 さらに、in situハイブリダイゼーションを行い、スルメイカ神経系におけるアスパラギン酸ラセマーゼ遺伝子転写産物の分布を調べるとともに、抗体も作製し、酵素の分布を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初は、平成31年度中に発現クローニングによりアスパラギン酸ラセマーゼ遺伝子を単離する予定であったが、cDNAライブラリーの作製が予想以上に困難であったため、遺伝子の単離まで行えなかった。したがって、その費用として計上した予算が使えず次年度使用額が生じた。 令和2年度も引き続き発現クローニングを行うので、次年度使用額をその費用として用いる。また、今年度予算は当初の予定通り、生化学実験関連試薬や実験系プラスチック類などの購入費用として用いる予定である。
|