最終年度はこれまで得た研究成果をもとに、フィリピンにおける産地農産物流通に関する1次データを用いて国際比較研究の試行を行った。契約栽培の持続可能性を検討するまでには至らなかったものの、生産者が市場に参加するうえでの組織形態がより互恵的な関係性に基づいている点が判明するなど、今後の研究深化に有益な分析を行うことができた。一部の研究成果は2022年度のアジア政経学会秋季大会で報告するとともに、有意義なフィードバックを得ることができた。 研究期間全体を通じた本研究課題の重要な問いは、「小規模経営農家にとって契約栽培は持続可能な市場参加形態なのか」である。契約栽培の仲介者となりえる在来商人および農業企業の2006年から2019年までの状況変化に関する聞き取り調査の結果を踏まえ、契約栽培の持続条件を理論的に分析した。伝統的な卸売流通の価格水準が高騰していることが生産契約の持続性を毀損していることを明らかにした。また、一部で生産契約が維持されている事例との比較分析も行い、共同体メカニズムによる履行強制が部分的に機能している点、農業企業が単に生産要素に投資するのではなく、(生産販売の指導など)訓練費用に関する投資を行っている点が抜売を生じさせるホールドアップ問題の回避に寄与していることを明らかにした。ジャワにおけるモデルケースとして提示された本事例の契約栽培は持続しなかったものの、小規模経営農家の市場参加を促進し、その地位を向上させた点で、長期的な開発の観点からの有効性を認められると結論付けた。 これらの主要結果は、2022年3月に出版した単著の一部に収録されている。また、パジャジャラン大学の共同研究者との共著論文に関しては国際学術雑誌に掲載された。
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