本研究の目的は、わが国農業における最重要品目の1つである牛肉について、その需要・市場構造の計量経済分析を行うことを通して、TPP11協定や日米貿易協定などの自由貿易協定が国産牛肉生産に与える影響について考察することである。 最終年度は主に、第2および第3の小課題について分析を行った。第2の小課題「牛肉輸出国のわが国市場に対する市場支配力」については、米国産牛肉および豪州産牛肉を対象に、残余需要モデルを用いて市場支配力の計測を行った。その際、第1の小課題「国産牛肉と輸入牛肉の差別化」において、米国産の部位間および豪州産の部位間でもそれぞれ同質財とは言えない(差別化されている)ことが確認されたことを踏まえて、部位レベルで市場支配力を明らかにした。また、第3の小課題「国内における輸入牛肉の価格伝達性」についても、上述した第1の小課題の結果を踏まえて、米国産牛肉および豪州産牛肉の部位レベルで価格伝達性を明らかにした。 研究期間全体を通した研究結果の概要は、以下のとおりである。まず、第1の小課題から、国産牛肉と輸入牛肉の差別化の程度とともに、同じ輸入相手国であっても部位ごとに見ると同質財とは言えない(差別化されている)ことが明らかになった。上記の結果を踏まえて、第2の小課題である市場支配力および第3の小課題である価格伝達性について、輸入相手国の部位レベルで分析を行った。同時に、輸入牛肉を部位レベルで分析するに当たって解決すべき課題(経済理論との整合性やデータの制約など)を明確化した。最後に、以上の分析結果をもとに、自由貿易協定が国産牛肉生産に与える影響について考察を行った。
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