研究課題/領域番号 |
19K15923
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研究機関 | 農林水産省農林水産政策研究所 |
研究代表者 |
八木 浩平 農林水産省農林水産政策研究所, その他部局等, 研究員 (50769916)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 穀物 / 総合商社 / 企業行動 / ブラジル / 垂直的調整システム |
研究実績の概要 |
本研究は、中長期的な国際穀物市場価格の高騰や米国と中国の貿易戦争といった近年の国際穀物市場の変化を背景に、日本の食料安全保障に関する最前線での実態を日本の穀物商社の企業行動から検証するものである。具体的には、日本の穀物商社である総合商社や全国農業協同組合連合会の穀物調達に当たっての企業行動を整理し、またその行動を規定する外的・内的要因を把握することで、日本の食料安全保障について政策的なインプリケーションを得る。 2019年度は、我が国における大豆や菜種の最大の需要者である植物油製造企業へ3回の調査を行い、国際穀物市場の環境変化や、近年の植物油製造企業の行動について聴取した。そこでは、中国等の発展途上国の畜産部門の発展により配合飼料の原料である大豆粕・菜種粕の国際市場価格が高騰したことで、特に大豆搾油において植物油製造業の収益性が向上した点や、オリーブオイルやごま油等の家庭での利用拡大が進み、大きな収益源となっている点を聴取した。一方で、米国とのFTAの締結により植物油輸入の拡大が危惧されていた。 また、全国農業協同組合連合会のブラジルでの穀物事業について調査を行い、子会社を経由した穀物調達と外部の企業を経由した穀物調達の垂直的調整システム(取引の仕方の特徴)を比較し、取引実態を整理した。その上で、子会社への投資の理由等を多国籍企業論や垂直的調整システムの規定要因に係る種々の理論を用いて整理し、ブラジルにおける穀物事業の詳細な実態を検証した。 このように、我が国の食料安全保障をめぐる企業単位の動態について、主に穀物の観点から検証を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
総合商社や全国農業協同組合連合会における穀物事業の実態について、得られる資料を整理し、問題意識を調査計画書として取りまとめ、質問票を作成した。こうした点は、初年度に実施する項目として提示していたものであり、実現できているため「(2)おおむね順調に進展している。」を選択した。 また、上述した全国農業協同組合連合会の企業行動についての成果は、2020年7月にある日本農業市場学会で個別報告を行い、報告論文を投稿する予定であり、この点では従来想定していた研究計画よりも進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、全国農業協同組合連合会の調査と同様の方法で総合商社の穀物事業に関する研究を実施し、研究成果を国内外で発信する。 また、我が国の大豆・菜種の最大の需要者である植物油製造業の動向についても、我が国の食料安全保障と密接に関係する。植物油製造業につちえ、近年の国際穀物市場の環境変化や米国のFTAへの対応など、最新の事業実態について整理し、産業構造について研究を行う。具体的には、2020年度に文献を読んだ上で問題意識を整理し、調査計画書を作成する。その上で、2021年度以降に調査を実施し、研究成果を取りまとめる予定である。 なお、本研究の主な研究方法はフィールド調査である。新型コロナウイルスの感染拡大により、聞き取り調査の実施は困難を伴うため、今後の進捗状況に影響を及ぼす可能性がある点に留意が必要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、文献整理と調査票の作成、数回のフィールド調査を行った。そのうち文献整理については、所属機関である農林水産政策研究所の図書館や、近くに立地する国会図書館で資料を収集できたため、想定と違い使用する必要がなかった。数回のフィールド調査についても、植物油製造業や全国農業協同組合等、東京都内での移動であったため所属機関である農林水産政策研究所の外勤費を利用することができた。そのため科研費から利用する費用を節減でき、次年度使用額が発生した。 今後の使用計画については、コロナウイルスの感染拡大状況にも依るが、ブラジルやアメリカ合衆国等でのフィールド調査を行うため、そうした調査費用に今回の余剰分を当てたい。また、海外の学会において、類似の研究について情報収集を行い、そのための旅費にも当てたいと考えている。
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