令和4年度は、貿易自由化が進展する中で、総合商社や全農が実施する油糧種子輸入がどのような影響を被り得るのか、バリューチェーンの一端を構成する日本の実需者である植物油製造業に焦点を当てた論文を執筆し、『農村研究』に投稿して掲載された。具体的には、油糧種子でなく植物油自体の輸入が増加し得るものの、収益性の点等からすぐに切り替わる訳でない点を明らかにした。ただ、カナダでの菜種搾油能力の増強で、菜種輸入量が減少し得る可能性があり、植物油製造業の競争力の強化が原料確保の上でも重要である点を示した。 また、カナダの穀物産業への参入の阻害要因と誘因も、総合商社や全農等に聞き取り調査を実施した。 また、本科研費の交付期間がCOVID-19流行下で企業調査を十分に実施できなかったこともあり、輸入に依存する穀物・油糧種子バリューチェーンの将来像を消費面から検討するため、中長期的に供給が拡大し得る輸入キャノーラ油の消費者の需要性のアンケート調査を実施した。具体的には、消費者評価がカナダ産キャノーラ油普及の一定の障壁となる可能性を示した。 更に、このように植物油製造業が穀物バリューチェーンの一端を担う一方、その搾油事業が岐路に立つ中、国内植物油製造業の安定経営が日本の穀物バリューチェーンの形、即ち安定した穀物の確保に影響し得る点がこれまでの研究で明らかになった。そこで、2018-19年度に家庭用植物油市場でキャノーラ油を抜いてトップの市場規模となったオリーブ油について、植物油製造業の大きな収益源となる代替油脂と位置付け、前出のキャノーラ油の調査に質問項目を加えて効果的な販促活動や国内植物油メーカーの供給の優位性の調査を実施した。 また、穀物が飼料として家畜に消費される穀物バリューチェーンの形を大きく変化させ得る代替肉(大豆ミート、培養肉)の消費意向や意識、効果的な販促活動に係るアンケートも実施した。
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