研究課題/領域番号 |
19K15932
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
中本 英里 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 西日本農業研究センター, 研究員 (20824303)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 農福連携 / 障害者雇用 / GAP / ユニバーサル農業 / 作業工程細分化 / 業務分担 / 作業環境整備 / チェックリスト |
研究実績の概要 |
本研究では、「農福連携」の取組実態を調査し、障害者の労働の質を向上させるための条件と、障害者雇用によってもたらされる営農現場への影響を明らかにすることを目的とする。本年度は予備調査として、文献調査および先進事例の現地調査を行い、知的障害者の就労現場で求められる支援体制の要件を、福祉と農業の視点から検討した。 文献調査の結果から、支援体制の要件は、作業工程の細分化・単純化、ユニバーサルデザイン化、ナチュラルサポート、多様な業務の確保の4つに集約された。特に、効率的な作業が求められる一般就労の現場では、知的障害者の特性を考慮すれば、複数の作業を同時に行うような複雑な作業は、工程を細分化・単純化することが重要であった。 上記支援体制要件を具体的に検討するため、先進事例を現地調査した結果、作業工程の細分化や単純化は、「ユニバーサル農業」の継続的な実践や、GAP(農業生産工程管理)導入によって充実化することが確認された。「ユニバーサル農業」とは、障害者等の社会参加の効用を農作業の改善や担い手育成に活かす取組である。先進事例では、障害者雇用の数を定期的に増やすことで障害者の社会参加の機会を拡大させると同時に、作業効率を高める努力として継続的に作業体制を見直した上で作業工程を細分化・単純化し、これを機械・治具の開発や作業マニュアル作成に活かしている。また、GAPは「より良い農業経営を実現させる」取組であるが、GAPにおける食品安全や労働安全、環境保全等にかかる具体的取組は、「ユニバーサル農業」を補強する役割があることを把握した。 なお、先進事例における作業工程の細分化・単純化の実態や障害者の職域拡大の成果を定量的に評価するため、作業工程の数や業務分担の詳細を、障害者雇用初期段階(GAP等導入前)と直近(GAP等導入後)とで比較し、その変化を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の最終目標地点は、営農現場に良好な影響を与え得る障害者雇用の条件の解明であり、研究計画は、(1)予備調査と(2)事例分析で構成される。まず(1)予備調査において、文献調査・現地調査を行い、知的障害者の一般就労現場で求められる支援体制の要件を、福祉分野の視点、農作業の視点、他産業の視点から抽出し、障害者雇用の成功要因を探るための「チェックリスト」としてまとめる。その後、(2)事例分析によって、複数の事例を調査し、経営概要、労務管理の実態、経営成果を把握するとともに、予備調査で作成した「チェックリスト」を用い、どのような就労環境で、どのような経営成果が上がっているかを把握する。 本年度は、(1)予備調査を遂行し、知的障害者の一般就労現場で求められる支援体制の要件を検討した。具体的には、「ユニバーサル農業」とGAPに焦点を当て整理し、一部の事例ではあるが、経営成果についても明らかにした。また、予備調査の結果では、先進事例の実態と同時に、農福連携事例に多種多様な形態の取組が存在する実態も明らかとなったため、より広範な視点で支援体制要件を整理する必要があると考えられた。そこで、補足調査、セミナー、学会等による継続的な情報収集を予定していたが、新型コロナウイルス感染症予防対策により、出張が制限されたため、これらは完遂できなかった。よって、「チェックリスト」の完成には至っていない。 以上より、当初の計画に比べ、若干の遅れは生じているものの、予備調査の段階において、既に経営成果を詳細に把握できた事例もあったことから、研究の遅れは取り戻せる範囲にあると考える。
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今後の研究の推進方策 |
補足調査等を遂行するとともに、「チェックリスト」を完成させる。その上で、「チェックリスト」用いた事例分析を行い、どのような就労環境(支援アプローチ)で、どのような成果が上がっているかを明らかにする。 本年度は一部の事例のみを対象に、「ユニバーサル農業」やGAP導入による営農現場への影響を明らかにしたが、障害者の安定雇用の条件をさらに精査する上では、複数の事例を対象に、どのような就労環境で、どのような経営成果が上がっているかを検証する必要がある。その際、業務分担の変化のみならず、必要労働時間の変化や労働費についても明らかにし、生産効率の向上についても検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
補足調査、セミナーおよび学会等への参加の計画が、新型コロナウイルス対応により無くなったため、本年度は旅費および調査にかかる費用が一部不要となったが、引き続き、情報収集・データ処理を行うための費用として使用する予定である。
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