令和3年度は、令和1、2年度に実施した調査研究を踏まえて、研究成果の発表や取りまとめを中心に行い、必要に応じて補足調査を行った。また、令和4年度予算案において水田政策をめぐる大幅な見直しが提示されたことを受けて、新政策に対して、これまでの調査研究から導かれるインプリケーションを発表した。 農業再生協議会に関する既往研究が薄い理由について現象学的視点から明らかにするとともに、農業再生協議会による農業観・農地観を反映した水田フル活用ビジョン(現、水田収益力強化ビジョン)・産地交付金の実態に着目して地域間比較分析を行った。 その結果、農業再生協議会の多様性について、産地交付金の単価設定状況を含めて明らかになったほか、地域の既存組織として自然災害発生時のレジリエンス強化にも貢献することが実証的に示唆された。とくに、飼料用水稲(飼料用米・WCS用稲)については既存の稲作からの導入が容易であることから、不作付地解消や中山間地域対策の農作物として独自の認識が形成されていることなどを実証的に明らかにした。 また、ビジョンの策定や産地交付金の設定をめぐり、従来の自由度の高さが失われており、とくに2018年度の米政策の変更以降、予算制約を背景に、国による制約の強いビジョンになりつつあり、ビジョンの策定が、地域ごとの農業観・農地観を反映しにくい、制度対応型の単なる文書作成となりつつあることを実証的に明らかにした。 研究成果の取りまとめとして、理論、歴史、統計の各側面、および実態分析を含む最終とりまとめの、計4冊分の書籍の完成原稿を執筆した。このうち、最終とりまとめを除く3冊分を刊行し、最終とりまとめについては、科研費(研究成果公開促進費)不採択もあり、個人での金銭的負担の限界から、資金難を理由に慣行を断念した。今後、刊行費分の貯金・調達による刊行、またはインターネット上での無料公開を予定している。
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