本研究は積雪寒冷地の果樹園を対象に,気候変動が将来の土壌水分,地温,土壌呼吸に起因する土中CO2動態におよぼす影響を明らかにすることを目的とした.弘前大学藤崎農場のリンゴ果樹園を対象地とし,まず土壌水分,地温,土中CO2濃度を連続観測した.また,地表面から放出されるCO2フラックスの測定,および表層土壌の全炭素量や溶存有機態炭素量の測定を行った.続いて,HYDRUS-1Dモデルを用い,土中水・熱移動計算を行った.非積雪期は,モデルは土壌水分と地温をよく再現した.積雪期は,モデルは積雪の開始および消雪のタイミングをよく再現した一方,本モデルでは積雪による断熱効果を考慮していないため,地温は実測値と計算値に乖離が生じた.以上を踏まえ,HYDRUS-1DのUNSATCHEMモデルを用い,土中CO2生成・移動計算を行い,計算値と実測値を比較しながらパラメータチューニングを行った.気候変動のシナリオスタディには農研機構のメッシュ農業気象データを利用した.「現在」を2011-2020年,「将来」を2091-2100年として,現在期間は過去データ,将来期間はMIROC5のRCP8.5シナリオによる予測値を得た.本気候予測値によると,「将来」は平均気温が年間で約4.5℃上昇,月降水量が5月は2.3倍に増加、10月は0.76倍に減少,その他の月は1.1~1.3倍の増加と考えられる.このような気候の変化によって,特に5月に土壌水分・地温の上昇に伴って根圏の土中CO2濃度が増加,また,10年間の夏季の最大値が1.3倍程度増加することが予測された.また,現在は12月から3月にかけて土中CO2濃度が緩やかに減少またはほぼ一定であるが,将来の消雪時期の早期化によって,2月中旬から土中CO2濃度が上昇する可能性が示唆された.
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