本研究では、堆積物微生物燃料電池(SMFC)による底質改善機構について微生物生態学的側面から評価を行うため、複数の底泥試料を対象とした比較実験を実施した。底泥および直上水は海域・河川・淡水湖沼(二箇所)・公園池(二箇所)の六地点から採取し、それぞれに対してSMFCとして稼働する状態(閉回路)と非通電状態(開回路)を設定し、浄化効果の比較を行った。 底質間隙水中のリン濃度は、通電開始から一ヶ月程度で閉回路と開回路に差が生じ始め、特に淡水系の底泥においてはSMFCによる間隙水中のリン濃度の顕著な低減が確認された。また、実験終了時(実験開始から半年後)に底泥中の酸化還元電位をマイクロセンサーにより測定したところ、いずれの底泥においても閉回路では開回路に比べて数十から百mV程度の上昇、すなわち底泥の酸化状態への移行が確認された。 実験終了後に底泥に埋設した電極材を回収し、電極近傍の微生物相を解析したところ、リンの蓄積・吸着に関わる微生物はほとんど検出されなかった。一方、発電能を持つ微生物に関しては、海域の底泥を用いた系では硫酸還元細菌に分類されるDesulfobulbus属がSMFCで優占することがわかった。一方、淡水系(五種)の全ての底泥では、発電能や嫌気条件下でメタン酸化能を持つことが知られているMethanoperedens属が閉回路系(SMFC)のみで優占していた。したがって、Methanoperedens属は淡水域でSMFCを稼働させた場合に普遍的に顕在化する可能性が高いことが示唆された。この微生物の機能と発電や底質改善効果との関係性をより詳細に把握することで、浄化効果の促進など技術の発展に繋げられると考えられた。
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