糖質を含む食品の摂取は,腸管内におけるデンプンからグルコースへの加水分解によるグルコース量増加速度の上昇,すなわち急激な血糖値の変化を引き起こす.この反応は,2型糖尿病,高脂血症および心疾患などの生活習慣病の発症と密接に関係する.このため血糖値の上昇を,ヒトの血液より算出するグリセミック・インデックス(GI)や,ヒトの消化器官をガラス器具内で再現したin vitro模擬消化試験で算出する推定GI(eGI)による評価が欧米を中心に進められている.食物繊維やポリフェノールなどは,糖質消化性(血糖値の変動)を緩やかにする機能性が明らかにされ,日本食の消費量の中で重要な位置を占める玄米,大麦,ソバおよび茶などは,これらの機能性成分を豊富に含むことから世界的に注目されている.一方で,工学的な調製および加工操作もまた糖質消化性に影響する.本研究は,日本食の中で消費量が多い大麦,ソバおよび茶を試料とし,植物固有の遺伝的性質と加工操作が糖質消化性に与える影響の検討を目的とした.R3年度は,1)品種の異なる大麦を使った機械製麺の検討,2)大麦含有量の異なる機械製麺の評価,3)規格内および規格外ソバを使ったモンゴル伝統料理ボーズ作製の検討,をそれぞれ実施した.その結果,以下のようなことが明らかとなった.1)検討した品種のうちもち絹香は,機械製麺に最適であった.2)もち絹香を40~60%含有する大麦麺を作製できた.3)ソバ粉を75%含有するボーズを作製できた.これらの糖質消化性は,現在調査中である. 研究全体を通して,植物の遺伝的性質と工学的加工操作によって糖質消化性が変化することが明らかとなり,それを速度論的に解析することができた.ただし,茶の遺伝的性質,加工操作が糖質消化性に及ぼす影響については,新型コロナウイルスの影響により十分な調査ができなかったため,今後も引き続き検討する.
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