研究課題/領域番号 |
19K15945
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
今泉 鉄平 岐阜大学, 応用生物科学部, 助教 (30806352)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ペクチン / 原子間力顕微鏡 / ナノ構造 / 農産物 / 加工操作 / 乾燥 / ブランチング |
研究実績の概要 |
本研究は、加工操作によって農産物の嗜好・食感機能や健康性機能・生体調節機能など様々なポテンシャルを引き出し、高機能食品へのアップデートの可能性を探ることを目的とする.本研究においては、ペクチンの自己組織化能力が、食感や機能性の制御に重要な役割を果たすと考え、原子間力顕微鏡を用いたグローバル構造解析について主眼を置いた。加工操作がペクチンのグローバル構造をどのように変化させるかを明らかにすることが、第一の目的であり、初年度はこの点について重点的に取り組んだ。ニンジンやカキから、水溶性ペクチン画分(WSP)、キレート可溶性ペクチン画分(CSP)、希アルカリ可溶性ペクチン画分(DASP)を順次抽出した。各画分中のガラクツロン酸量の測定結果より、熱湯加熱処理がWSPを減少させ、CSPやDASPの含有量をわずかに増大させるという結果が見られた。また、それぞれの構造的特性について原子間力顕微鏡を用いて観察した。WSPは主に小形の粒子状構造として観察され、CSPやDASPについては繊維状あるいはネットワーク形状が見られた。したがって、特に、CSPやDASPでは自己組織化能力が高く現れるものと考えられた。熱湯処理が果実中に含まれるペクチンに及ぼす影響について観察を行ったところ、生鮮果実とは異なるネットワーク構造を示し、加工による自己組織化能力の改変が示された。さらに、乾燥処理による変化では、内在酵素によるものと思われるペクチンの自己組織化能力の低下が見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の目標としては加工操作が農産物内在ペクチンにどのような変化を及ぼすか、という点に主に焦点を当てていた。とりわけ、本課題において主軸となるペクチンのグローバル構造解析については、問題なく実施ができている。現在までにナノレベルでの構造的特徴把握のためのノウハウを構築できており、引き続き同様の解析を行うことで、最終的な目標達成も可能と考える。また、加熱操作や乾燥操作といった複数の工程におけるペクチンの変化についてもある程度把握できており順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現時点において、農産物内在ペクチンのグローバル構造が加工操作によってどのように変化するかをある程度把握することができた。引き続き、様々な加工条件を適用し、知見の蓄積を図る。ペクチン分子では、主鎖に混在するラムノース(Rha)を起点として側鎖が形成されるため、ガラクツロン酸(GalA)とラムノースの組成割合はグローバル構造変化を理解する上で特に重要であると考える。本研究では、濃硫酸で加水分解したペクチン抽出液から、高速液体クロマトグラフィを用いて構成糖の同定を行う。また、ペクチン抽出液中のウロン酸量をカルバゾール硫酸法、全糖量をフェノール硫酸法により求め、中性糖量を算出する。ガラクツロン酸によって構成される主鎖については、加工操作により低分子化などが生じる状況が想定されるため、メトキシル化度や分子量の測定も行う。なお、メトキシル化度についてはペクチンを弱アルカリで部分加水分解するときに生じるメタノールを測定することで求められ、分子量については分子量マーカーを用いHPLCによって決定する。また、これまでの実験において、グローバル構造の変化に酵素が強く関与することが示唆された。引き続き、グローバル構造の変化メカニズムの解明においては化学構造・組成などだけでなく加工に伴う酵素の活性変化についても調査を行う予定である。
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