研究実績の概要 |
前年度までに、加工操作によってペクチンの性状が変化することが明らかとなり、加熱時に引き起こされる細胞膜損傷がトリガーとなる可能性が考えられた。今年度は、細胞膜損傷に伴うイオン漏出現象について把握を試みた。温湯処理時の浸漬液の電気伝導度度測定を行ったところ、細胞膜損傷が促された条件において浸漬液の電気伝導度上昇が確認された。さらに、ICP-AESを用いて試料中のイオン濃度(K, Mg, Ca)を測定したところ、電気伝導度増加が確認された条件でこれらのイオン濃度の低下がみられた。したがって、細胞膜損傷に伴うペクチン性状の変化について、細胞膜からの漏出イオンが細胞壁領域でのペクチン分子や関連酵素に干渉した可能性が示唆された。また、フーリエ変換赤外分光光度計を用い,水溶性(WSP),キレート可溶性ペクチン(CSP)抽出画分の構造解析を試みた。各抽出画分を凍結乾燥させた粉末をKBr錠剤法により調整し測定した。それぞれのスペクトルにおいて、分子内および分子間水素結合に関与する遊離ヒドロキシ基の伸縮振動に起因する3300~3500cm-1のピークと、CH2のC-H伸縮振動に起因する2930 cm-1付近のピークが認められた。また、メチルエステル化されたカルボキシ基(COOCH3)に対応する1740cm-1付近のピークと、遊離カルボキシ基(COO-)の伸縮振動に対応する1600 cm-1付近のピークから、メトキシル化度(DM)を計算したところ、WSPではCSPよりも高い値を示した。温湯処理によるDMの変化はCSPでより顕著に表れた。
|