研究課題/領域番号 |
19K15956
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
立岡 美夏子 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋機能利用部門(生命理工学センター), 特別研究員(PD) (70835967)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | セルラーゼ / 深海 |
研究実績の概要 |
本年度の1年間は出産および育児のため研究を中断していた。昨年度までの実績は以下のとおりである。
深海では浅海から沈降する有機物をエネルギー源とした生態系が広がっていると考えられているが、深海における有機物の生分解については知見がほとんど得られていない。セルロースは植物や藻類、ホヤなどによって豊富に生産されることに加えて高い結晶性を持つことから、深海までたどり着く有機物の多くを占めることが推測される。そこで本研究では、独自のスクリーニング手法を用いて深海からセルロース分解菌を分離することで、深海由来微生物の保有する糖質関連酵 素及びそのセルロース分解メカニズムを明らかにすることとした。初年度においては、深海においてホヤが多く観測されるサイトを含む多様な地点からのサンプリング、及び、セルロース分解菌の単離を行った。検討したサンプルについては、ほとんどのセルロースプレートにセルロース分解菌の存在を確認できた一方で、その一部のみ単離及び培養条件の検討が可能であった。これまで3種類の新規性の高い分解菌のゲノム解析から、既知の酵素とはドメイン構成の特徴が異な り、多数の機能未知ドメインを含む酵素を多数見出しているため、今後、深海微生物に共通する特徴やサイト依存的な特性を検討し、さらに多様な菌株について検討を行う。これまで単離を行った菌について安定した培養系を確立するとともに、保有酵素の特徴について遺伝子のドメイン構成や分泌パターン、及び発現解析の点から比較を行い、既知の海洋性菌や陸上微生物との酵素群の違いを精査する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
3種の深海由来セルロース分解菌について培養実験やゲノム解析を行ったところ、海洋性多糖として多く存在するキチンやアガー等の分解酵素と比較して、多数のセルラーゼ、ヘミセルラーゼを有していたことから、これらの菌において陸源性のセルロース分解に特化することが有利な戦略となっていることが示唆されている。この特徴が深海微生物にある程度共通した性質であるのか、また異なる酵素群を持つ菌が存在するのかを明らかにするため、さらに異なる深海環境でサン プリングする必要があるが、多数の菌の存在を確認できた一方で、より詳細な解析を行うには安定した培養条件及び分離方法を検討することが必要である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの深海由来微生物の培養の検討から、セロビオースや金属イオン、尿素等を加えると生育がよくなる結果等を得ているため、さらに詳細な培地組成の検討を行い、温度や酸素濃度等も最適化することによって安定した培養系を確立する。また、ゲノム解析・mRNA解析を行ってそれぞれの菌が保有・発現させている 多糖分解酵素を明らかにし、これまで各スポットで単離した菌との比較検討を行う。新規性の高い酵素に関してはタンパク質発現を試み、機能解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
セルロース分解菌の分離を行うために、冷蔵及び冷凍で保管していた深海サンプルを用いて検討したところ、菌の十分な生育が確認されず、長期保存ではなく新 鮮なサンプルを取得する必要が生じた。そこで、航海のサンプルを得てスクリーニングを行うこととし、深海由来の菌が難培養性であることから分離に長期間を要したため、シーケンスや機構解析を実施することができず、それにかかる費用の支出がなかった。すでに、これまで取得した菌でのゲノム解析等を検討してお り、また菌の単離も完了しつつあることから、シーケンス費用や詳細な機能解析のための費用については次年度での使用を計画している。
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