前年度までの研究においてルーメン幹細胞の同定とニッチ環境の検討を行い、目的のものと思われる細胞群を見出し、ニッチ環境の構成因子を示唆するマーカータンパク質を発見した。本年度はこれを受けて、「分化機序の検討と分化培養系の構築」および「飼料スクリーニング系の開発」の実施を計画していた。しかし、準備していた凍結ルーメン上皮細胞の生存性が低下し、培養実験が困難となった。追加の動物解剖も行うことができなかったため、本年度は上述した「分化機序の検討」に関連して、「ルーメン上皮における細胞増殖機序の検討」に研究項目を変更した。重層扁平上皮構造を取るルーメン上皮においては、その基底層に増殖活性をもつ組織幹細胞様の細胞群を見出していたが、子牛の成長期における臓器発達との直接的な関連性は不明であった。皮膚などの重層扁平上皮において、組織幹細胞の対象分裂および非対称分裂のどちらの様式で細胞分裂を行うかにより、組織の成長やターンオーバーに影響を与えることが知られている。本実験では、組織発達前の3週齢および発達中の13週齢におけるルーメン基底層細胞の分裂様式を主に検討した。結果として3週齢では活発な非対称分裂がみられ、組織発達に伴う上皮の肥厚化との関連性が示唆された。また、この時期の高い細胞増殖活性は特定の細胞外マトリックスにより維持されている可能性が示唆された。以上のように研究計画に変更が生じたものの、当初のテーマと関連して、ルーメン上皮細胞の増殖と組織発達の関連性の一端を明らかにすることができた。
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