研究課題
食肉の質を向上させるためには、遅筋型と速筋型で大別される骨格筋細胞の筋線維型(筋タイプ)を制御する必要がある。成熟した個体では、筋線維に接着した運動神経によって筋タイプが制御される神経刺激作用が構築されるため、筋タイプの大幅な変換は困難であると考えられてきた。しかし我々は、骨格筋の肥大や再生に寄与する筋幹細胞(衛星細胞)が互いに融合して、新生筋線維(筋管)を形成する際、運動神経の影響を受けずに自律的に筋タイプを制御する”コミットメント(初期決定)機構”に着目している。最近では、遅筋または速筋の各筋部位から単離した衛星細胞は、それぞれで異なる細胞外因子を多量に合成および分泌するシステムが存在することを見出しつつある。そこで本研究課題では、衛星細胞による筋タイプ初期決定機構の分子メカニズムを解明するため、”1. 遅筋型筋線維または速筋型筋線維それぞれに局在する衛星細胞の特異性”、および”2. 筋部位内で衛星細胞を取り巻く細胞外環境による影響”の2パターンからアプローチをする。2019年度は、テーマ1.に関して、筋収縮タンパク質であるミオシン重鎖のアイソフォームが筋タイプマーカーとして用いられる点を利用して、遅筋型または速筋型ミオシン重鎖それぞれに蛍光タンパク質を融合させた遺伝子組み換えマウスより、各筋タイプに特異的な単一筋線維を摘出して培養し、その過程で遊走する衛星細胞を採取した。いずれの筋タイプにおいても細胞の採取は可能であり、筋管の形成能力が認められた。続いてテーマ2.に関して、培養基質として弾性率をコントロールできるアクリルアミドゲル用いた培養プロトコルを作製し、衛星細胞へ物理的刺激を与えた際の筋管の筋タイプ制御に与える影響を調べた。細胞接着の度合いや増殖などが不安定であったが、細胞接着因子の変更等により様々な弾性率でも安定的に衛星細胞を培養できる実験系が構築できた。
2: おおむね順調に進展している
衛星細胞による自律的な筋タイプの制御に関する分子メカニズムの直接的な検証には至らなかったが、各筋タイプに特異的な単一筋線維に局在する衛星細胞の単離および培養方法、ならびにアクリルアミドゲルの弾性率の違いを用いて衛星細胞へ物理的刺激を与える培養系の確立に至った。よって、次年度以降では各テーマの表現型解析をスムーズに進めることが期待される。
まず、各筋タイプに特異的な筋線維からそれぞれ単離した衛星細胞における転写因子Pax7およびMyoDの陽性細胞数を調べることで、細胞純度ならびに筋分化能を確認する。続いて、各衛星細胞が形成した筋管の筋タイプ組成を検証すると共に、これまでの研究より明らかとなった筋タイプ制御に関わる細胞外因子(semaphorin 3Aおよびnetrin-1)の添加および発現抑制実験を通して、詳細に分子メカニズムを検証する。また、アクリルアミドゲル基質を利用して物理的刺激を衛星細胞に与える培養実験においても、同様に形成された筋管の筋タイプ組成を検証する。加えて、上述の細胞外因子や、筋組織中の他系譜細胞が分泌する増殖因子およびサイトカインの中から候補因子を選択して、物理的刺激を与えた条件下で添加して培養することで筋管の筋タイプ組成の変化を検証する。
2019年度において使用する消耗物品の価格低下に伴い、当初の使用予定額と差額が生じたため次年度使用額が生じた。なお、2020年度において、本使用額は実験で用いる試薬等の消耗物品の購入費用に当てる予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件) 備考 (1件)
Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 525 ページ: 406-411
10.1016/j.bbrc.2020.02.099
http://lab.agr.hokudai.ac.jp/cell_tissue_biology/?page_id=92