非筋層浸潤性膀胱癌の標準治療の1つである抗がん剤の膀胱内注入療法の効果を高めるために、超音波とマイクロバブルによる膀胱内ドラッグデリバリー法の開発を進めている。これまでに、3次元培養系に使用して細胞の薬剤取り込み促進を確認し、前年度には健康なビーグル犬を対象に安全性の評価を行なった。犬には人同様に膀胱癌があり、犬の膀胱癌は人の膀胱癌の自然発症モデルと言える。本年度、ドラッグデリバリーの本態と言うべき、組織での薬剤浸潤を評価した。健康なビーグル犬を対象に、膀胱内に抗がん剤ピラルビシン塩酸塩および超音波造影剤ソナゾイドを投与し、体外から超音波診断装置の造影対応リニアプローブを用いて超音波を1分間照射した。その後、超音波照射部位および非照射部位の膀胱組織に含まれるピラルビシン濃度をは液体クロマトグラフィ-タンデム質量分析計にて定量した。なお、本動物実験は「国立大学法人北海道大学動物実験に関する規程」(承認番号20-0081)に基づき適切に行われた。その結果、検討を行った3頭中2頭では超音波照射部位でのピラルビシン濃度が非照射部位の2倍および8倍と上昇した。3頭の平均ではピラルビシン濃度に照射部位と非照射部位での有意差が得られなかった(p=0.09)。 世界的に見ても、超音波とマイクロバブルによるドラッグデリバリー法は臨床応用へと進み始めている。診断装置を用いる手法でも治験が行われているが、組織への薬剤取り込みを証明した研究はない。今回、有意差を得るまでにはならなかったものの、膀胱組織での薬剤取り込みの定量評価を示したことは、超音波とマイクロバブルによるドラッグデリバリー法の科学的知見として、非常に有意義である。今後の腫瘍症例での臨床研究において、重要な予備実験データーと言える。
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