研究課題/領域番号 |
19K15972
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研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
菅沼 啓輔 帯広畜産大学, 畜産学部, 助教 (60772184)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | トリパノソーマ / 診断 |
研究実績の概要 |
二種類のウマトリパノソーマ症(スーラ病及び媾疫(こうえき))は、近縁な二種類の動物トリパノソーマであるエバンストリパノソーマ(Trypanosoma evansi)及び媾疫トリパノソーマ(T. equiperdum)によって引き起こされる致死的な原虫病である。スーラ病に対する治療法は確立されているが、一方で媾疫に対する有効な治療法は確立されていない。そのためこれらの疾病を鑑別することが重要であるが、二種類の病原トリパノソーマは遺伝的に非常に近縁なため、臨床現場で使用可能な寄生虫学的・血清学的・分子生物学的な鑑別診断法は確立されていない。本研究では鑑別診断法の確立を目指し、まずこれらの疾病の鑑別診断に用いる遺伝子領域を特定するため、比較ゲノム解析を行った。その結果、20か所程度の遺伝子領域を対象としたPCR法などの分子生物学的診断法により鑑別できる可能性のある遺伝子領域が特定できた。また、鑑別診断の精度を向上させるため、これまでに申請者が保管・収集しているウマトリパノソーマとその近縁トリパノソーマに加え、ベルギー熱帯医学研究所から40株のトリパノソーマリファレンス株の分与を受けた。新規導入株のうち、2株について増殖とDNA抽出を行い、遺伝子診断法による鑑別診断のサンプルとして用いる準備を行った。さらに鑑別診断に重要な情報となる動物トリパノソーマ症の疫学状況の収集と解析も合わせて実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発表済みのT. evansi、T. equiperdum、及び両者に近縁なT. brucei brucei(馬を含む動物アフリカトリパノソーマ症:ナガナ病の病原体)、T. b. gambiense, T. b. rhodesiense(ヒトアフリカトリパノソーマ病の病原体)のゲノム情報を比較した結果、これらのトリパノソーマ鑑別できる可能性のある遺伝子領域を特定した。 またベルギー熱帯医学研究所より今後の比較ゲノム解析、鑑別診断の検証に用いるためのリファレンス株として40株のトリパノソーマの分与を受けた。そのうちの2株についてはマウスへの感染と増殖したトリパノソーマからのDNA抽出を行うとともに、in vitroへの馴化を試みた。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度特定した遺伝子領域をもとに分子生物学的な鑑別診断法に用いるPCR法の確立と評価を行う。またトランスクリプトーム解析をもとにしたトリパノソーマ間での発現遺伝子の違いを明らかにし、血清学的な鑑別診断法の開発を試みる。さらにベルギー熱帯医学研究所より入手したトリパノソーマリファレンス株のマウスでの増殖・in vitro培養への馴化を進め、DNAを精製する。得られた複数株のトリパノソーマDNAを用いて新たなゲノム解析の準備と鑑別診断法の検証を進める。またウマトリパノソーマ症の迅速診断のためのリアルタイムPCR法の構築と評価を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた学会参加を別予算で行ったこと、及びベルギー熱帯医学研究所からのトリパノソーマリファレンス株の輸入が年度後半になったため当初トリパノソーマの増殖に用いる予定だった動物・試薬類の購入が少なくなったため、次年度使用が生じた。次年度使用分はトリパノソーマの増殖関する費用及び学会参加経費に充てる予定である。
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