研究課題
住肉胞子虫Sarcocytsis sp.は、馬刺しの食中毒事例により新規の食中毒病原体と認定され、近年ではジビエとして利用推進されているシカ肉でも同様の食中毒を起こした。しかしその毒性因子、機序、種特異性は不明である。本研究では、野生ニホンジカに寄生するSarcocytsis sp.のヒトに対する腸管毒性因子と種間毒性の相違を解明する。国内各地域の野生ニホンジカ亜種からSarcocytsis sp.虫体を分離し、分子量依存的に分画した虫体タンパク質を用いてin vitro、in vivo実験を行い、毒性因子を同定する。標的タンパク質のアミノ酸配列を用いたSarcocytsis種間比較解析と組換えタンパク質を用いた毒性実験によりSarcocytsis種に起因する毒性の相違を検討する。原虫であるSarcocytsis sp.が細菌類のように毒性タンパク質による化学的侵襲をおこすという知見は、これまでに唱えられてきた寄生虫の傷害性は物理的という定説を覆す学術的新規性がある。本年度の計画は昨年度に回収したシカ肉寄生住肉胞子虫を用いて毒性試験を行う予定であったが、昨年度の新型コロナウイルス感染症蔓延のため、狩猟者が捕獲の自粛をしていたため、シカ肉サンプルが入手出来なかった。そのため、より入手しやすい馬肉に感染する住肉胞子虫Sarcocystis fayeriを用いてシカ寄生住肉胞子虫Sarcocystis spp.の比較対象となる毒性を検討した。その結果、ウサギを用いたin vivo試験(腸管ループテスト)において、住肉胞子虫ブラディゾイトを分子量依存的に分画したタンパク質のうち、15kDaのタンパク質と19kDaのタンパク質が腸管内に液体貯留を起こすことが分かった。また、in vitro試験において、L929線維芽細胞をブラディゾイトで刺激した細胞実験では直接的な細胞傷害は起こさないが、U937マクロファージ細胞への刺激に対してはケモカイン、VFGFの産生を誘導した一方、TNF-α、IFN-γ等の炎症性サイトカインの産生は誘導されなかった。
3: やや遅れている
新型コロナウイルス感染症拡大防止のため依頼している狩猟者が捕獲の自粛を求められており、試料である住肉胞子虫感染シカ肉の入手が困難であるため。目視で異常が確認された肉は廃棄処分されるため、市販のシカ肉には本研究に使用できる量の住肉胞子虫が感染しておらず、転用することができない。
今年度行った研究のように、シカ肉でなく、入手しやすい馬肉に感染している同属の寄生虫を用いて研究を行う。遺伝的類似性が高いため、毒性を引き起こす因子となるタンパク質や毒性発現機序は同一でないにしても高い類似性が期待される。
各地へのサンプリングや試料提供に関する打ち合わせ等の出張が出来なかったため、旅費としての使用が大幅に減っている。また、研究協力者である狩猟者、ジビエ事業者に支払う予定であった謝金も、捕獲自粛のため試料提供が行われず支払われなかった。これらの費用は、新型コロナウイルス感染症による行動自粛が解除された頃に使用する予定である。
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Parasitol Res.
巻: 119 ページ: 2309-2315
Foodborne Pathog Dis.
巻: 18 ページ: 104-113