研究課題/領域番号 |
19K15974
|
研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
山崎 朗子 岩手大学, 農学部, 助教 (30648358)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 住肉胞子虫 / ジビエ / 食中毒 / ニホンジカ / 毒性タンパク質 |
研究実績の概要 |
住肉胞子虫Sarcocystis属を原因とする馬肉の食中毒については、S. fayeriの腸管毒性候補因子として15 kDaタンパク質(アクチン脱重合因子;ADF)が報告されているが、その発症機序や病態の詳細は不明である。本研究では、S. fayeriの毒性について、毒性因子の探索と病態解明を目的とした研究を行った。 ウマの筋組織から回収したS. fayeriのシストから抽出した水溶性タンパク質を陽イオン交換クロマトグラフィーによりNaCl 100-200(mM)、200-300、300-400、400-500の濃度勾配にて電荷依存的に分画し、各分画を日本白色ウサギ腸管結紮ループに投与した。陽性対照にはウェルシュ菌のエンテロトキシン、陰性対照にはリン酸緩衝液(PBS)を用いた。約18時間後にF/A値(腸管ループ内液体量/長さ)を用いてループ内の液体貯留を評価した。さらに各ループのHE染色組織標本にて内管腔組織を観察した。 NaCl 100-200(mM)、200-300、300-400、400-500、フロースルー(FT)分画を投与した腸管ループ試験のFA値は0.03、0.01、0.09、0.04、0.34であった(n=3、陰性対照0.02、陽性対照1.31)。また、陰性対照以外の全ての分画投与ループの内管腔組織に偽好酸球浸潤を認めた。陰性対照との比較から、S. fayeri由来の水溶性タンパク質のうち、NaCl 300-400 mM分画とFT分画に含まれるタンパク質が腸管ループに液体貯留を起こすことが示唆された。また、陰性対照以外の全てのタンパク質分画で偽好酸球の浸潤が認められた。偽好酸球浸潤を起こす分画と液体貯留を起こす分画が一致しないことから、下痢発症と偽好酸球浸潤はそれぞれ異なる二つ以上の因子が起こしていることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
原虫であるSarcocystisはフラスコ培養での増殖が出来ず、宿主の骨格筋から手作業で採集しなくてはならない。病原性を確認するためには冷凍保存が出来ないため、Sarcocystis感染のチルドシカ肉が必要である。同じくSarcocystis感染が認められるウマは家畜であるため供給が安定しており、野生動物であるシカより入手しやすいため、今年度はウマに寄生するS. fayeriを用いた。昨年度まで研究計画通りに進めたが、昨年度の研究結果を考慮したところ、さらに正確な結果を得るために実験を追加する必要性が考えられた。研究計画では毒性タンパク質の検出および単離にゲルろ過クロマトグラフィー法を選択していたが、実際に実験を行ったところ目的タンパク質を他のタンパク質と完全に分離するには至らなかったため、イオン交換クロマトグラフィーを追加することを決定した。また、本研究の目的は下痢毒性因子を探索することであったため、腸管ループ試験の判定基準に従来どおり液体貯留量を用いていたが、液体貯留だけでなく、炎症の状態も確認する必要が生じたため、腸管組織の病理検査も追加した。そのため、本来の研究計画に項目が追加されている。 陽イオン交換カラムを用いてNaCl濃度勾配にて分画したところ、腸管ループに液体貯留を起こす分画はflow throw分画であった。陽イオン交換カラムを通過するタンパク質であることから、陰イオンタンパク質である可能性が高いが、陰イオン交換カラムを用いるとSarcocystis由来のタンパク質は全て通過してしまうため、腸管に液体貯留を起こすタンパク質の特定には、flow through分画を新たに分画する方法が必要である。腸管粘膜の偽好酸球浸潤は液体貯留と異なり、全ての分画に確認されたことから、液体貯留≒下痢因子とは異なる因子である可能性が高く、また、因子は複数であることが考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度に初めてイオン交換クロマトグラフィー法を用いたが、目的タンパク質の分離にはさらに詳細な分画・精製を行う必要性がある。そのため、イオン交換クロマトグラフィーとゲルろ過クロマトグラフィーを合わせて行い、病原因子タンパク質を正確に特定する。後に続く組換えタンパク質の発現、機能確認を間違いなく行うためにも標的タンパク質の選定は重要であるため、昨年度に続いて病原因子候補のタンパク質抽出を精度を上げて行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初は野生ニホンジカのサンプリングのため、離島を含む全国への出張を予定していたが、新型コロナウイルスを考慮した出張の制限により大幅に旅費の使用が減った。また、住肉胞子虫感染シカ肉サンプルの代理品として価格の低い住肉胞子虫感染の馬肉を購入したため、消耗品費も予定より減っている。一方、昨年度から今年度にかけて研究計画に新たな実験項目を追加しているため、次年度使用額は今年度の追加実験と、移動制限解除に伴う出張に使用する。
|