研究課題/領域番号 |
19K15975
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小林 幸司 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任助教 (40826484)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | がん / 脂質メディエーター |
研究実績の概要 |
がんの治療には様々な抗がん剤が使用されるが、重篤な副作用を引き起こす上にすぐに耐性ができて効果が無くなるため、患者の負担が大きい。脂質メディエーターはがん内で大量に産生されることが知られているが、その役割はほとんどわかっていない。本研究では、がん内の血管の抗がん剤耐性に影響を与える脂質メディエーターを同定することで、「血管を標的とした抗がん剤耐性解除法の開発」を行うことを目的としている。 2019年度に行った研究によって、がんの内部の脂質メディエーターを網羅的に解析し、抗がん剤耐性に関与する可能性があるものを見出した。実際、その脂質メディエーターの合成酵素をノックアウトしたマウスでは、血管の抗がん剤耐性が解除されていることが明らかになった。そこで2020年度には、その詳細なメカニズムをin vitro、in vivoの両面から解明することを目的として研究を行った。 脂質メディエーターの受容体の阻害薬や欠損マウスを用いた実験により、脂質メディエーターの核内受容体が血管の抗がん剤耐性に関与している可能性が示唆された。そこで、核内受容体の阻害薬をin vitroで血管内皮細胞に処置すると、その抗がん剤耐性が解除された。逆に、核内受容体の作動薬の処置は、血管内皮細胞の抗がん剤耐性を亢進した。また、脂質メディエーターの合成酵素阻害薬や核内受容体の阻害薬を処置すると、血管内皮細胞内への抗がん剤の取り込みが促進されることが明らかになった。 以上のことから、この脂質メディエーターは、1) 核内受容体に作用して、2) 抗がん剤の取り込みを抑制することで血管の抗がん剤耐性を引き起こしている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度初頭に行われたCOVID-19の蔓延に伴う大学の研究活動縮小の影響を受けてはいるものの、おおむね実験計画にしたがって、脂質メディエーターの作用機序を解明にすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の研究によって、がん血管の抗がん剤耐性を上昇させている脂質メディエーターが、その核内受容体に作用して抗がん剤の取り込みを抑制することをin vitro、in vivoの両面から示すことができた。今後は、このメカニズムをさらに深く解明し、生命現象の理解につなげる。また、他の様々な種類の抗がん剤やがん細胞において、この脂質メディエーターが抗がん剤耐性を上昇させるのかについても検討し、本研究の成果がどの程度汎用性をもつのかを明らかにする。さらに、これらの成果をまとめて科学論文を執筆し、投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の蔓延に伴う大学閉鎖時に、ほぼすべての実験を停止させる必要があったため次年度使用額が生じた。今年度も申請書に記載の通り、消耗品・動物飼養等に使用する予定である。
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