がんの治療には様々な抗がん剤が使用されるが、重篤な副作用を引き起こす上にすぐに耐性ができて効果が無くなるため、患者の負担が大きい。脂質メディエーターはがんで大量に 生されることが知られているが、その役割はほとんどわかっていない。本研究では、がんの血管の抗がん剤耐性に影響を与える脂質メディエーターを同定することで、「血管を標的とした抗がん剤耐性解除法の開発」を行うことを目的としている。2021年度までに行った研究によって、がん内で産生されている脂質メディエーターの一つを見出しており、その合成酵素をノックアウトしたマウスにおいては血管の抗がん剤耐性が解除されていること、合成酵素の阻害薬の投与でも同じ現象がみられることを明らかにした。また、これらの現象は、血管内皮細胞内への抗がん剤の取り込みを抑制することによることも明らかになっている。 現在のところ、合成酵素の阻害薬はいくつか存在するが、それらは特異性が非常に低いうえに、毒性が高く、ヒトの臨床に用いられるようなものではない。そこで、2022年度はより特異性が高く、安全性が高い阻害薬の探索を行った。東京大学創薬機構の協力のもとライブラリーからシミュレーションによって76個の化合物を選択し、cell free assayによって合成酵素阻害作用を示す化合物を探索したところ、活性のある化合物を見出した。それらが細胞における脂質メディエーター産生を抑制するかについて検討したところ、最終的に6種類の化合物が得られた。今後はこれらを生体に投与し、薬物動態や薬効、安全性について精査する必要があると考えている。また、以上の結果をまとめて論文を執筆し、現在投稿中である。
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