研究課題/領域番号 |
19K15976
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
木之下 怜平 北海道大学, 獣医学研究院, 特任助教 (30761150)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ダブラフェニブ / BRAF阻害剤 / イヌ尿路上皮がん |
研究実績の概要 |
イヌ尿路上皮がん(UC)は非ステロイド系抗炎症薬に反応を示す唯一のがんである。しかし、耐性の発現やそのほかの治療の選択肢に乏しく、UCの予後改善のために新たな治療法の確立が求められている。これまでに我々は、UCが炎症の促進に関わるプロスタグランジンE2(PGE2)を大量に産生しており、UCに高率に認められるBRAF遺伝子変異がそれを制御することを世界に先駆けて明らかにした。そこで本研究では、BRAF遺伝子変異をターゲットにすることでUCの炎症環境を制御できるのではないかという考えのもと、BRAF阻害剤を用いた新たながん治療法の確立を目指すとともに、尿中のUC細胞の遺伝子発現を解析することで、生体におけるBRAF阻害がUCの炎症環境の構築にもたらす影響や、耐性機序のもととなる表現型の変化を明らかにすることを目的としている。 BRAF阻害剤であるダブラフェニブは人悪性黒色腫に対して使用されているが、イヌに対する投与プロトコルは検討されていないため、令和元年度は、イヌにおけるダブラフェニブの安全性の評価と臨床例に対するプロトコルの策定を実施することとした。国内でのダブラフェニブの販売は限定的であり、小動物臨床での使用例はないが、我々はノバルティスファーマに提供依頼し、本研究でのダブラフェニブの使用を可能にした。また、同社の販売前安全性試験の結果から、イヌにおけるダブラフェニブの臨床的な用量が5mg/kg/日と算定し、高用量で投与した際の重要な副作用が皮膚、心血管系に起こりうることが明らかとなった。さらに、上記の用量においても精巣への悪影響が生じる可能性が高いことから、未去勢雄を研究対象から除外することとした。 また、来年度実施予定であるRNA-Seqを用いた遺伝子解析に必要な尿中のUC細胞のRNA抽出のため、北海道大学附属動物病院に来院した症例を中心に検体採取を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和元年度は代表研究者の異動に伴い研究機関が変更となったことで、安全性試験に用いる健常犬の確保が困難となった点、またRNA抽出に使用する機器の手配や国内流通が限定的であったダブラフェニブの入手に時間を要した点などにより、当初、研究の進捗に遅延が発生していた。 しかし、ダブラフェニブの製造元であるノバルティスファーマとの協議を進めた結果、本剤を遅滞なく本研究で使用することが可能となり、また同社での犬における安全性試験の詳細なデータの提供を受けることで安全性試験の遅れを大きく挽回することができ、全体としては研究の遅れを取り戻しつつあると考えた。 RNA抽出に使用する機器に関しても、新たな所属研究機関である北海道大学にて準備が整い、検体採取し予備的検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
令和二年度は、北海道大学附属動物病院および東京大学附属動物医療センターに来院したイヌ尿路上皮がん症例にBRAF阻害剤を投与し、腫瘍径の変化および新規転移病変の有無、副作用の評価を行い、臨床的有用性を評価する。さらに、治療前および治療後に尿中から採取したUC細胞からRNA-Seqにより遺伝子発現を解析する。また、治療の奏功の程度や耐性発現の有無と、PGE2を中心とした炎症誘導に関わる分子や治療耐性獲得に関わる分子の発現とを比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
RNA抽出に使用する機器の配備や国内流通が限定的であったダブラフェニブの入手に時間を要したため、研究に遅れが生じ、令和元年度に使用予定であった薬剤や試薬の数と実際に購入した数に差が生じたため、次年度に繰越する形となった。しかし令和元年度内にこの2つの問題点は解決したため、次年度である令和二年度には次年度繰越金と令和二年度分の助成金を用いて薬剤と試薬を購入し、研究を進める予定である。
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