研究課題/領域番号 |
19K15977
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
松田 研史郎 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 産学官連携研究員 (70642619)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 相対的低酸素 / マスト細胞 / アナフィラキシー / TRPA1チャネル |
研究実績の概要 |
高濃度酸素環境から急激に酸素濃度を落とす相対的低酸素刺激によってマウスモデルにおける全身性アナフィラキシー病態が誘発される事を明らかにした。また、本病態の増悪化は酸素濃度及び高酸素曝露時間依存的に重症化する事、マスト細胞欠損Cpa3creマウスでは直腸温の低下、血管透過性の亢進が抑制された事からマスト細胞が主要なメディエーターであると示唆された。 加えて、相対的低酸素刺激によるTRPA1チャネルを介したカチオン流入がマスト細胞の脱顆粒を誘発する事が細胞内カチオンイメージング法によって示された。つまり、骨髄由来マスト細胞に相対的低酸素刺激を加えた所、カルシウムイオン流入が著しく亢進し、カルシウムイオン非存在下で相対的低酸素刺激を加えても活性化には至らなかった。さらに、TRPA1ノックアウトマウス骨髄由来マスト細胞に対する相対的低酸素刺激ではその流入が有意に抑制された事から、マスト細胞に発現するTRPA1チャネルを介したカルシウムイオン流入が全身性アナフィラキシー病態の増悪化に寄与していると考えられた。 また、抗TRPA1抗体を用いた免疫染色後のコンフォーカルマイクロスコープ解析により細胞表面のTRPA1発現がマウス骨髄由来マスト細胞及びヒト、マウスマスト細胞株(P815、LAD2、HMC-1)で増加している事、そして抽出した膜タンパク溶解液を利用してウェスタンブロット法を実施した所、通常酸素濃度で培養したマウス骨髄由来マスト細胞及びP815、LAD2、HMC-1と比較して相対的低酸素刺激後に各種培養細胞の機能的TRPA1受容体の発現増強が示唆された。特に発現増強は、LAD2及びHMC-1で顕著であった。 以上のことから、発現増強した細胞膜表面のTRPA1チャネルを介したカルシウムイオンの流入が相対的低酸素刺激に対するマスト細胞の脱顆粒を惹起することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、マウス骨髄由来マスト細胞を利用したカチオンイメージング法によって、TRPA1チャネルを介したカルシウムイオン流入が相対的低酸素刺激に対するマスト細胞の脱顆粒プロセスのメディエーターであることを明確化した。さらに、免疫染色法によってその局在を明確化するとともにウェスタンブロット法による機能的TRPA1受容体の発現解析を実施した。 他方、実施予定であった各種キナーゼ発現並びにそのリン酸化状態は現在ウェスタンブロッティング法により解析中である。 今後、次年度計画実施予定の酸素を基軸とした高地脳浮腫モデルの病態解明と同時並行的に実施する。
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今後の研究の推進方策 |
今後、相対的低酸素刺激によって生じるTRPA1依存的なマスト細胞の活性化と急性高山病に代表される高地脳浮腫の連関性をその病勢と重症度から評価する。 つまり、今年度得られた知見をもとに想定される薬物阻害剤(マスト細胞スタビライザー、トリプターゼ阻害剤、TRPA1阻害剤など)を利用し、各種トランスジェニックマウス(Cpa3creマウス、TRPA1KOマウス、mmcp6KOマウス、mmcp6/7DKOマウスなど)における高地脳浮腫の病勢評価を実施する。特に重症度の指標とされている脳内水分量、大脳皮質血流量、脳組織の形態学的変化血液脳関門の透過性を解析する。また、ヒスタミンなどのケミカルメディエーター、マスト細胞由来プロテアーゼ、各種炎症性サイトカインなどのエフェクター分子を明確にすることで、酸素濃度を基軸とした新たな急性高山病の病態増悪化機構の詳細を解析するとともにエフェクター分子阻害剤の分子標的治療としての有用性を検討する。
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