研究実績の概要 |
高酸素環境から通常酸素濃度への劇的な酸素濃度変化により、成体マウスがアナフィラキシーを発症することを前年度に明らかにした。 そこで、高酸素環境飼育時の濃度を各75%,60%,50%,40%に設定し、アナフィラキシー症状の重症度を解析した所、50%以降で段階的に症状が重度化することを発見した。さらに、そのメディエーターがマスト細胞であったことから、TRPA1欠損マウス及びマスト細胞欠損マウス、それらのダブルノックアウトマウスに対して同様の試験を行った所、それぞれのマウスで野生型と比較して、アナフィラキシー病態が有意に抑制された。また、マスト細胞由来ケミカルメディエーターである血中βヘキソサミニダーゼ、ヒスタミン、トリプターゼ(mMCP6)量も有意に減少した。 次にTRPA1欠損マウス骨髄より培養マスト細胞を作出し、相対的低酸素刺激を誘導した所、TRPA1欠損マスト細胞では、野生型マウス骨髄由来マスト細胞と比較して、βヘキソサミニダーゼ、ヒスタミン、mMCP6の培養上清中への放出量が有意に抑制された。 これらの事から、酸素が全身性アナフィラキシーの新規エフェクターであり、50%以上の相対的低酸素刺激によって発現増強したTRPA1を介してマスト細胞が活性化することが示唆された。 加えて、60%の酸素濃度で24時間飼育後、40%まで酸素濃度を10%ずつ、1時間ごとに下げた結果、40%以下のタイミングで通常酸素濃度へ戻してもアナフィラキシーは発症しなかった。以上のことから、酸素濃度50%以上がアナフィラキシーを発症する閾値であることが示唆された。 本研究成果は、2020年10月にJournal of Immunologyに掲載され、当該号のTop Readsに選ばれた。
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