感染症の新興・再興を制御するためには、野生動物を含めた生態系内の感染症の動態を捉えることが必要である。特に山間部から家畜やヒトの生活圏まで広く分布する中型野生動物の分布や移動は地域の感染症伝播に影響を及ぼしている可能性がある。本研究では、中型野生動物が生態系内で感染症伝播に果たす役割を明らかにし、地域の感染症についてのリスク評価を行うことを目的とした。 まず、野生動物に関する情報収集・検体採集ルートの確立のために、関係機関とのパイプ構築を行った。野生動物の有害捕獲を行っている大学近隣自治体との間で検体収集協力についての合意を形成した。また、ロードキルの処理を行う自治体の道路維持担当部署に協力を依頼し、ロードキル対応記録をもとにした検体収集ポイントの選定を行った。これらをもとに、調査対象地域を、当初予定していた地域から、宮崎市およびその周辺自治体を含む地域に変更した。上記で形成したネットワークおよびその情報を活かし、研究開始から2020年3月までに野生動物99頭(有害捕獲:アナグマ25頭、タヌキ15頭、ロードキル:アナグマ20頭、タヌキ30頭、イタチ7頭、テン2頭)を収集し、組織材料を採取した。 野生動物の感染症保有状況調査に関しては、収集した野生動物の脳組織を用いた狂犬病を対象とした検査を行い、検査実施済みの20検体全てで陰性を確認した。この結果について、野生動物検体の収集法と採材効率についての検討結果と併せて、令和元年度日本獣医師会獣医学術学会年次大会(2020年2月7日-9日、東京)にて「官学が連携した狂犬病対策の取り組みと野生動物モニタリングの展開」と題する口頭発表を行った。さらに、宮崎県でヒトの患者報告が多い重症熱性血小板減少症候群ウイルスに対する血清疫学調査を実施中である。加えて、A型インフルエンザウイルスに対する血清疫学調査も開始した。
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