研究課題
感染症の新興・再興を制御するためには、野生動物を含めた生態系内の感染症の動態を捉えることが必要である。特に山間部から農村部、都市部などのヒト・家畜・伴侶動物の生活圏まで広範囲にわたって生息する中型野生動物の分布や移動は地域の感染症伝播に影響を及ぼしている可能性がある。本研究では、中型野生動物が生態系内で感染症伝播に果たす役割を明らかにすることを目的とした。地域に分布する中型野生動物の集団遺伝構造解析のために、異なる生息環境を含む地域(またがる自治体の総面積としては約960平方キロメートルの範囲)で収集したタヌキ58検体の組織から抽出したDNAを用いてマイクロサテライトマーカーを用いたジェノタイピングを試みた。候補となるマイクロサテライト座に対するプライマーを用いたPCR増幅の確認およびマルチプレックス化についての予備試験を行ったのち、11のマイクロサテライトマーカーを用いたジェノタイピングを行った。アナグマについても同様に計66検体の組織から抽出したDNAを用いて、過去ニホンアナグマで多型が認められ個体識別に使用された報告のある6つのマイクロサテライトマーカーを用いたジェノタイピングを行った。継続して実施してきた宮崎県のタヌキ・アナグマにおける重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスの感染状況調査については、同地域の人や伴侶動物から報告されているSFTSウイルスと99.8~100%相同なウイルスRNAがアナグマから検出された。また、タヌキよりもアナグマのほうが高い抗体保有率を示し、加えて血中抗体濃度も有意に高いことが明らかとなった。個体同士の接触頻度、生息密度、SFTSウイルス感染時の致死率、抗体産生などに種差がある可能性が示された。
4: 遅れている
異動に係る準備等のため解析に遅れが生じていたが、現在得られている研究結果を論文化することを目指し研究期間の延長を申請した。
宮崎県内のタヌキおよびアナグマ集団の集団遺伝構造解析のために用いたマイクロサテライトマーカーの評価のために各種統計量を算出する。また、集団遺伝構造解析として、地理情報も加味した分集団の推定を行う。地域のタヌキ集団とアナグマ集団について、それぞれ大きな一つの遺伝的に一様な集団か、または遺伝的に隔離された分集団が存在するかは、同種間の感染症伝播に影響を与えることが考えられる。今後このような分集団の有無と病原体保有状況の関連について評価することは、野生動物の間で流行する感染症の拡がり方を捉える一助となると考える。
研究の進行が予定より遅れているため、学会参加費はじめ論文原稿校正費用や投稿費用などの研究成果報告に関する経費を次年度へ繰り越した。次年度使用額は、主に研究成果報告のために使用する予定である。
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