研究課題/領域番号 |
19K15985
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研究機関 | 酪農学園大学 |
研究代表者 |
藤木 純平 酪農学園大学, 獣医学群, 助教 (30805114)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ファージ療法 / バクテリオファージ / ファージ耐性 / 薬剤耐性 / トレードオフ / Fitness cost |
研究実績の概要 |
近年、抗生物質が効かない薬剤耐性菌が顕在化し、今後の感染症対策の課題となっている。これらの背景から、細菌特異的に感染するウイルス“バクテリオファージ(ファージ)”を用いたファージ療法への期待は格段に高まっている。ファージは薬剤耐性菌であっても効果的に殺菌する。しかしながら、細菌が抗生物質に耐性化したように、ファージにも耐性化する。すなわち、ファージによる治療法を発展させるためには、ファージ耐性菌の制御やその発生メカニズムに関わる理解は極めて重要である。そこで本研究では、過年度に得られたファージ耐性菌を材料に、ファージ耐性化の分子メカニズムとそのファージ療法への応用を目指して更に研究を進展させた。これまでに分離し報告したファージ(PB1-likeファージ)に耐性化した緑膿菌には、染色体を大規模に欠失させる変異株、LPSの糖鎖重合酵素に変異を有する変異株の大きく2パタンが存在することが分かった。また、ファージ耐性変異株と親株のLPSの比較から、PB1-likeファージがLPSの糖鎖長を厳密に識別して感染することが示唆された。さらに、これらのファージ耐性変異株には、minimum inhibitory concentration(MIC)を指標とした薬剤感受性試験において、抗菌薬感受性が変化したものが複数観察された。特に、フルオロキノロン系抗菌薬への感受性が増加した変異株が複数認められた。これらの結果は、ファージ耐性化に伴い、抗菌薬感受性を変化させることが可能であることを示唆している。すなわち、ファージに耐性化しても(これまで効かなかった)既存の抗菌薬によって効果的に細菌を制圧できる可能性が考えられる。現在、ファージ耐性化と薬剤感受性のトレードオフの分子メカニズムについて詳細に検討を実施しており、今後、本メカニズムのファージ療法への応用を通して次世代型の抗菌戦略に貢献したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初想定したメカニズムとは異なるものの、ファージ耐性化によって薬剤感受性を変化させ、これまで効き難かった抗菌薬への感受性を増加させることに成功した。また、その分子メカニズムに関しても概ね特定することができた。
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今後の研究の推進方策 |
ファージ耐性化と薬剤感受性の変化を紐解くため、その分子的なメカニズムの解明に着手した。今後、親株とファージ耐性変異株の次世代シーケンス解析を通し、フルオロキノロンへの感受性増加の原因となる分子基盤について特定する計画である。さらに、”ファージと薬剤感受性のトレードオフ”をその他の臨床分離株でも比較検討する予定である。また、本解析で示したように、ファージ耐性化は細菌にとってコスト(fitness cost)を生じる変化である。すなわち、バクテリオファージによってfitness costを上手くコントロールすることで、ファージ耐性化の方向性を我々の想定する変化へ都合良く誘導する方策が考えられる。Fitness costのアウトプットは今回の薬剤感受性のトレードオフに限らず、病原性などへ拡張可能であることから、これまでに得られたファージ耐性変異株を用いて本戦略の有用性を包括的に探索したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響によって時間を要した解析が生じたため。入荷が困難であった消耗品の納入に使用する計画である。
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