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本研究では、細菌にのみ感染し殺菌するウイルス”バクテリオファージ（ファージ）”によって薬剤耐性菌の薬剤感受性を制御する方策について検討し、ファージセラピーへの応用を目指した。
ファージは細菌に感染する際に、細菌表面上の受容体に吸着する必要がある。またファージ耐性化は、受容体の変異が主要な耐性獲得機構であることが知られている。一方で、薬剤耐性に関連する細菌膜タンパク質を受容体とするファージを用いれば、ファージ耐性化に際し薬剤耐性関連分子に変異が蓄積することが予想され、ファージに耐性化しても薬剤感受性を回復させることが出来る。そこで過年度までの研究において、大腸菌や緑膿菌の薬剤排出ポンプを受容体とする新規ファージの分離を試みたが、環境中から理想的なファージを分離することは極めて難しいことが分かった。一方で、lipopolysaccharide（LPS）を受容体とするファージを複数分離することが出来た。より詳細にLPS認識ファージの感染機構を解析した結果、ファージ耐性緑膿菌株では糖鎖長を調節する遺伝子に変異が蓄積することが観察された。また、ファージ耐性緑膿菌株に再感染可能な変異型ファージは、受容体との結合に必須なロング・テール・ファーバーに共通した１アミノ酸変異を持つことが観察された。さらに、LPS変異型の緑膿菌を用いてファージの分離を試みた結果、線毛を認識するファージが分離された。LPS認識ファージと線毛認識ファージのカクテルは、緑膿菌の耐性化を効果的に抑制した。また、LPSファージに対して、緑膿菌が大規模な染色体欠失を伴って耐性化する場合に、本欠失領域に薬剤排出ポンプをコードする遺伝子が含まれることを突き止めた。この様な緑膿菌は、薬剤排出ポンプの基質である抗菌薬への感受性が増加した。ファージセラピーの展開上、ファージ耐性化の抑制・誘導を可能とする方策について知見が得られた。
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