研究実績の概要 |
Mesocestoides vogaeは食肉動物を終宿主、脊椎動物を第2中間宿主とする円葉目の条虫である。M. vogaeの幼虫テトラチリジウム(以下、TT)は多くの脊椎動物に感染し無性増殖を繰り返す一方、食肉動物に感染した場合は無性増殖を止め、成虫へ発育を開始する。実験室内の継代にラットを経たTTをin vitro下で高濃度トリプシン処理することで人為的に成虫化することができる。一方、マウスで継代を繰り返すとTTは成虫化能を失い、無性増殖を繰り返す。本研究ではTTが無性増殖期と成虫化をスイッチするメカニズムを解明することを目的に実験を行った。 まず、TTをラットおよびマウスで継代した後、高濃度トリプシン処理を行った。その結果、トリプシン処理下において、伸長、排泄管、片節および生殖原基の形成などの形態的な変化が生じた(成虫化)。次に、成虫化前後における遺伝子の発現量の変化に着目し、RNA-seq法を用いた網羅的解析を行った。その結果、解析を行った14,182遺伝子のうち、342遺伝子の発現が上昇し、230遺伝子の発現が減少していた。次に、成虫化に伴って発現が上昇していた遺伝子のうち遺伝子オントロジー解析において有性生殖に関与すると考えられた5遺伝子の発現変化をRealtime PCR法を用いて解析した。その結果、これらの遺伝子はいずれも成虫化によって発現が上昇した。さらに、dsRNAを用いたRNA干渉法も用い、成虫化によって発現が上昇するある遺伝子について発現を抑制することに成功した。以上の結果から、TTの成虫化に必要な遺伝子の検索およびその機能解析を行う環境が整った。
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