研究実績の概要 |
本年度はマダニの完全な人工吸血系確立に重要なマダニの吸血行動を誘発する動物被毛からの抽出物の検討を行った。動物被毛はツキノワグマ、ヒグマ、ウシ、マウスの 4 種類を用いた。抽出は Mocmahon et al., 2003. を参考にし、Dichloromethane (DCM) を用いて行った。動物被毛よりのマダニ誘引物質の抽出は論文の手順に従って行った。 動物被毛由来抽出物 50 μL を一辺が1.5 cm の正方形に裁断したろ紙に添加し、1分間風乾した。その後、ろ紙を 直径 9 cm の円形シャーレの隅に設置し、3 分間静置した。静置したろ紙の反対の隅に日本におけるマダニの実験室継代株であるフタトゲチマダニのメス成虫を 3 匹置き、2分間測定してシャーレの中央よりろ紙側に寄ったマダニの数をカウントした。マダニは 5分間のインターバルを置き、全ての動物被毛由来抽出物について観察を行った。また、陰性対照として抽出に用いた DCM を使用した。その結果、動物被毛由来抽出物の全てにおいてマダニの誘引が観察され、特にウシの被毛由来抽出物においては 3 匹中 2 匹のマダニの誘引が観察された。また、陰性対照ではマダニの宿主探索行動は観察されなかったが、動物被毛由来抽出物に対しては全ての群で宿主探索行動が確認された。以上の結果から、日本産マダニはツキノワグマやヒグマといった日本の野生動物や家畜であるウシ、実験動物であるマウスの被毛由来抽出物に誘引され、特にウシの被毛由来抽出物に強い反応を示すことが明らかとなった。 これまでの研究により、日本産マダニを用いた完全な人工吸血系の確立に向け、基礎的なデータを収集できたと考える。今後、これらのデータを集約し、本研究課題の達成につなげる。
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