外科手術侵襲は生体へ大きな代謝変化をもたらすことが想定されるが、その具体的な変化については検討がなされていない。外科手術後の代謝変化の解明は、周術期管理をより適切に行う上で非常に重要な知見となると考えられる。犬の外科手術時のアミノ酸代謝変化の解明のために、特に不妊手術(卵巣子宮摘出術)および眼球摘出術の症例を対象とし、サンプルの収集を実施した。採取したサンプルは、血漿中のアミノ酸濃度分析をプレカラム誘導体化法により実施した。また、定法に従い、C反応性タンパク濃度測定を実施し、炎症マーカーとアミノ酸濃度変化の関係性の検討を行った。 実際に不妊手術(卵巣子宮摘出術)の症例においては、炎症マーカーであるC反応性タンパク濃度上昇に合わせ上昇するアミノ酸が確認された。しかし、対象となる症例は犬種などにより体重も大きく異なり、同一の手術であっても個体ごとの外科手術侵襲は異なるため、同一犬種での検証の必要性も検討する必要があると考えられた。また、術者による侵襲の影響、外科手術時に使用する麻酔薬の影響なども考慮する必要があると考えられる。 同時に、腎障害とアミノ酸代謝との関係性も一部明らかになりつつある。動物の高齢化に伴い腎障害を有する動物への全身麻酔・外科手術の機会も増えている。疾患時のアミノ酸代謝変化についても外科手術侵襲におけるアミノ酸代謝変化を検討するうえでは考慮する必要がある。 2020年度については、研究対象となる症例の手術件数が大きく減少したため、十分な数のサンプルを収集できなかった。犬種、術者、使用する麻酔薬を同一にしての検討には至らなかった。犬においても、外科手術侵襲により生体のアミノ酸代謝の変化が起こる可能性が本研究より示唆されるため、対象とする症例の条件の検討およびサンプル数の増加が今後の展開として重要であると考えられた。
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