牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV)は、地方病性牛伝染性リンパ腫(EBL)の原因ウイルスであり、感染牛においてBリンパ球の1種であるB-1a細胞を選択的に腫瘍化する。BLV特異抗原の刺激によりB-1a細胞が選択的に腫瘍化するという仮説に基づき、以下の課題に取り組んだ。 1.BLV感染各ステージにおけるBLV及びB-1a細胞の体内局在の解析:各ステージ(感染無症状期、持続性リンパ球増多症(persistent lymphocytosis: 以下、PL期)、リンパ腫発症期)のBLV感染牛を対象とした。体腔内脂肪組織(大網、腸間膜、心冠部)に存在するリンパ球の集積Fat-associated lymphoid cluster(FALC)がいずれのステージでも腫大していた。感染無症状期で既にFALCではB-1a細胞が優位に増殖し、BLV RNAのin situ hybridizationにおいてFALCでのみウイルスRNAの発現が見られ、リンパ節では検出されなかった。PL期では、FALCに加えリンパ節でもB-1a細胞の優位な増殖およびBLV RNAの発現が認められた。リンパ腫発症時は腫瘍組織内にBLV RNAが検出された。 2.腫瘍化B-1a細胞BCR可変領域の個体間における共通性解析: 感染無症状期、PL期のB-1a細胞増殖部位において、BCR可変領域のPCRで単一又は複数のバンドが認められた。シーケンス解析により、腫瘍化B-1a細胞と共通性の高いB-1a細胞クローンが増殖していることを示唆する結果が得られた。 以上の結果より、BLV感染に関連したB-1a細胞選択的な増殖はFALCにおいて部位特異的に起こることが示された。選択的増殖の進行に伴いBLVおよびB-1a細胞の増殖がFALCからリンパ節を中心とした全身のリンパ組織へと広がり、腫瘍化が進展することが示唆された。
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