本研究計画は、高血圧症の新たな病態機序の解明を目的としている。一昨年と昨年度は主にリンパ管拡張能に着目し、高血圧モデルラットにおけるリンパ管の拡張機能が障害されるという知見、このメカニズムには活性酸素種の関与が示唆されるという知見が得られた。本年度は、リンパ管の収縮能に及ぼす影響を検討した。また、高血圧病態における血管内皮障害因子に関する新たな知見も得られた。本研究実績の概要は以下のとおりである。 これまで、高血圧を呈する成熟自然発症高血圧ラットSHRのリンパ管において、様々なアゴニストによる収縮反応が増強されることを見出してきた。一方で、血圧上昇の認められない若齢SHRにおいて、ウィスター京都ラットと比較し、リンパ管の収縮増強作用は認められなかった。本年度は、若齢SHRに降圧剤hydrochlorothiazideおよびhydralazine を6~8週間投与し、収縮アゴニストによる反応を検討した。降圧剤によりSHRの血圧を正常値範囲内に調節したものの、いずれの収縮増強作用に影響を与えず、改善は認められなかった。以上のことから、血圧そのものはリンパ管収縮増強に影響しないことを示唆された。 さらに、高血圧患者や高血圧ラットSHRにおいて腸内Streptococcus属が増加するという研究に着目した。SHRの血漿中でStreptococcus属の細菌毒素ストレプトリジンO(SLO)の血中抗体価が増加するという知見が得られた。また、細菌毒素SLO処置により血管内皮障害が誘発され、その障害はプロテインキナーゼCβ阻害薬により改善した。さらに、SLOのin vivo投与によりアセチルコリンによる降圧を抑制した。以上の結果から、「細菌毒素SLOは、腸内細菌叢の異常にともない腸管透過性の亢進時に体内に取り込まれ、血管系に影響を及ぼし高血圧症のリスク因子となり得る」という新規知見を得た。
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