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2020 年度 実施状況報告書

ヒストンのメチル化依存的インプリント遺伝子の発現制御による体細胞核移植法の改善

研究課題

研究課題/領域番号 19K16017
研究機関広島大学

研究代表者

三浦 健人  広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 助教 (70802742)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2023-03-31
キーワード胎盤 / ゲノム編集 / 発生工学 / マウス / インプリント遺伝子 / CRISPR-Cas9 / 体細胞クローン
研究実績の概要

近年、母側アレル特異的なヒストンH3のLys27のメチル化 (H3K27me3) の抑制的な修飾により、父側アレル特異的に発現するインプリント遺伝子が報告された。体細胞クローンマウス胚においてこれらの遺伝子は、母側アレルのヒストンのメチル化修飾が失われているために、両側アレル性の発現を示す。本研究は、「H3K27me3依存的なインプリント遺伝子の発現異常」と「体細胞クローンで見られる胎盤異常」の関連を明らかにし、それらの遺伝子の発現を正常化することで、クローンの胎盤異常を改善することを目的として行われる。具体的な方法の1つとして、標的遺伝子のノックアウトマウス系統を用いて、クローン胚において父側アレル特異的に標的遺伝子を発現させることで胎盤異常の改善を試みる。
本年度は標的遺伝子に含まれるSfmbt2、Gab1、Slc38a4に関して、母親ゲノムの遺伝子をノックアウトしたマウスの体細胞を利用してクローンマウスを作出した。これらのマウスの胎盤異常が改善しなかったことから、個々の遺伝子の発現異常を改善しても胎盤異常が改善しないことが明らかになった。クローン胎盤ではSfmbt2遺伝子内のmiRNAクラスターであるSfmbt2 miRNAクラスターの発現が高いことから、母親ゲノムのSfmbt2 miRNAクラスターをノックアウトしたマウスを用いてクローン個体を作出した。そのクローンマウスは胎盤重量・組織構造・遺伝子発現・出生率が改善したことから、Sfmbt2 miRNAクラスターの発現異常がクローン胎盤異常の一因であることが明らかになった。
また本研究の標的遺伝子の多くが全身でノックアウトすると致死となる遺伝子(致死遺伝子) であると予想されることから、致死遺伝子の解析に有用となる目的の組織が遺伝子変異を有するES細胞のみに由来するキメラマウスを簡便に作出する方法を開発した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究では、「H3K27me3依存的なインプリント遺伝子の発現異常」と「体細胞クローンで見られる胎盤異常」の関連を明らかにし、それらの遺伝子の発現を正常化することで、クローンの胎盤異常を改善することを目的としている。そのための方策の1つとして、標的遺伝子のノックアウトマウス系統を樹立し、標的遺伝子の母性アレル特異的ノックアウトマウスをドナーとしてクローン胚を作出することで、クローン胚のインプリント遺伝子発現の異常を正常化させ、胎盤異常の改善を試みる。
本年度は、Sfmbt2、Sfmbt2 miRNAクラスター、Gab1、Slc38a4のノックアウトマウスを用いて、これらの遺伝子に関して発現を正常化したクローン胎盤の表現解析を行い、各遺伝子のクローンマウス胎盤異常への寄与を明らかにした。この結果は、本研究の目的の一部が達成されたことを意味する。
また本研究で標的とする遺伝子の多くが致死遺伝子と予想されることから、1世代でKOマウスを作出するゲノム編集技術を用いて、目的の組織が遺伝子変異を有するES細胞のみに由来するキメラマウスを簡便に作出する方法を開発した。まず、生殖細胞を目的組織とするために、生殖細胞の発生に必須のNanos3遺伝子のエクソンを標的とした3種類のguide RNAとCas9 mRNAを野生型マウス受精卵に顕微注入し、ホストの胚盤胞を作成した。そこへ致死遺伝子であるDnmt3bを欠損した雄ES細胞を注入した。作出した雄のキメラマウスから生まれた産子は全てES細胞に由来しており、キメラマウスがES細胞に由来する精子のみを作ることが分かった。この技術は今後別の標的遺伝子の別の組織における機能解析を行う際に有用であると考えられる。
以上より、本研究は順調に進捗していると考えられる。

今後の研究の推進方策

今後はクローンマウスの胎盤異常のさらなる原因追及のため、本年度解析したSfmbt2、Gab1、Slc38a4以外の標的遺伝子の胎盤における機能解析を進める。具体的には、樹立済みであるSmoc1およびPhf17のノックアウトマウス系統を用いて、これらの遺伝子の胎盤形成において果たす役割を明らかにする。両遺伝子は致死遺伝子の可能性があることから、その機能解析には本年度開発した1世代でES細胞のみに由来する臓器を持つキメラマウスを作出する技術の利用も検討する。具体的には、野生型の受精卵から特定の臓器を欠損するような遺伝子変異を持った胚盤胞をゲノム編集技術により1世代で作出する。その胚盤胞に対して、Smoc1やPhf17等の機能解析をしたい遺伝子の変異をもったES細胞を注入してキメラマウスを作出する。そのキメラマウスの標的臓器はES細胞のみで構成されるため、標的遺伝子の標的臓器での機能解析が容易に行える。この手法を利用することで、一般に時間と労力を要するコンディショナルノックアウトマウスを必要とせずに、致死遺伝子の機能解析が行える。
両遺伝子の胎盤形成への関与が明らかになった場合は、それらの発現異常がクローン胎盤異常の原因となっている可能性があるため、これらの遺伝子の母性特異的ノックアウトマウスをドナーとしてクローン胚を作出することで、正常胚と同様に父性アレルのみから遺伝子発現を示すクローン胚を作出する。そのクローンマウスの胎盤を解析することで、両遺伝子のクローンマウスの胎盤異常への寄与を明らかにする。また、本年度解析したSfmbt2、Gab1、Slc38a4も含めて、複数の標的遺伝子をノックアウトしたマウスをドナーとして用いることで、クローン胎盤異常が単一の遺伝子の発現異常に依るものか、複数の遺伝子の発現に依るものかを明らかにする。

次年度使用額が生じた理由

新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえて、大学から要請された新型コロナウイルス感染拡大防止策の一環として、研究室へ通勤する人数を制限するために在宅勤務を余儀なくされた期間があった。そのため、研究計画に大きな支障は生じなかったものの、今年度実施予定だった実験のいくつかを行うことができなかった。また、どこの代理店をあたっても実験用試薬・消耗品が全体として品薄となり、いくつかに関しては本年度中に購入することができなかった。以上より、物品費の支出額が所要額を下回った。加えて、参加予定だったすべての学会が中止またはオンライン開催になり、出張も国内移動・国外移動のいずれも大学からの制限があったため、旅費の支出がなくなった。次年度は、今年度実施予定だったSmoc1およびPhf17のノックアウトマウス系統を用いた遺伝子機能解析を追加で行う予定であり、それに際して本年度使用するはずだった物品費を使用する。試薬・消耗品に関しては徐々に供給が回復してきており、本年度購入できなかったもののいくつかに関しては次年度に購入できる目処が立っている。次年度参加予定の学会の多くも現時点では現地開催が見込まれている。本年度実施できなかった実験を次年度に行い、その結果を発表するためにも本年度以上の学会参加を予定している。

  • 研究成果

    (13件)

すべて 2021 2020 その他

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) 備考 (5件)

  • [雑誌論文] T細胞依存的アレルギー性炎症の臓器・サブセット特異的な薬剤応答性2021

    • 著者名/発表者名
      神沼 修,三浦 健人, 林 啓太朗, 佐伯 真弓, 廣井 隆親, 森 晶夫
    • 雑誌名

      アレルギーの臨床

      巻: 41 ページ: 80-88

  • [雑誌論文] Role of CD4+ T Cells in Allergic Airway Diseases: Learning from Murine Models2020

    • 著者名/発表者名
      Miura Kento、Inoue Kimiko、Ogura Atsuo、Kaminuma Osamu
    • 雑誌名

      International Journal of Molecular Sciences

      巻: 21 ページ: 7480~7480

    • DOI

      10.3390/ijms21207480

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Generation of chimeric mice with spermatozoa fully derived from embryonic stem cells using a triple-target CRISPR method for Nanos3†2020

    • 著者名/発表者名
      Miura Kento、Matoba Shogo、Hirose Michiko、Ogura Atsuo
    • 雑誌名

      Biology of Reproduction

      巻: 104 ページ: 223~233

    • DOI

      10.1093/biolre/ioaa176

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Loss of H3K27me3 imprinting in the Sfmbt2 miRNA cluster causes enlargement of cloned mouse placentas2020

    • 著者名/発表者名
      Inoue Kimiko、Ogonuki Narumi、Kamimura Satoshi、Inoue Hiroki、Matoba Shogo、Hirose Michiko、Honda Arata、Miura Kento、Hada Masashi、Hasegawa Ayumi、Watanabe Naomi、Dodo Yukiko、Mochida Keiji、Ogura Atsuo
    • 雑誌名

      Nature Communications

      巻: 11 ページ: 2150

    • DOI

      10.1038/s41467-020-16044-8

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] T細胞依存性アレルギー性炎症に対するLAT1阻害薬の効果2021

    • 著者名/発表者名
      神沼 修, 森 晶夫, 遠藤 仁, 安西 尚彦, 林 啓太朗, 佐伯 真弓, 西村 友枝, 廣井 隆親, 三浦 健人, 山崎 憲政, 尾形 佐和子, 伊藤 大起, 古山 禎大
    • 学会等名
      日本薬理学会年会
  • [学会発表] Nanos3を標的としたtriple-target CRISPR法を用いてES細胞由来の精子のみを持つキメラマウスを作出する2020

    • 著者名/発表者名
      三浦 健人, 的場 章悟, 廣瀬 美智子, 小倉 淳郎
    • 学会等名
      日本繁殖生物学会
  • [学会発表] マウスY染色体上遺伝子が関与する性スペクトラム表現型2020

    • 著者名/発表者名
      的場 章悟, 三浦 健人, 尾崎 藍, 田村 勝, 小倉 淳郎
    • 学会等名
      日本繁殖生物学会
  • [学会発表] 野生由来異種マウスを用いたES細胞の樹立とキメラマウスの作出2020

    • 著者名/発表者名
      持田 慶司, 廣瀬 美智子, 長谷川 歩未, 三浦 健人, 渡邉 奈穂美, 井上 貴美子, 水野 沙織, 吉木 淳, 小倉 淳郎
    • 学会等名
      日本繁殖生物学会
  • [備考] 広島大学 原爆放射線医科学研究所 疾患モデル解析研究分野

    • URL

      https://shikkan-model.hiroshima-u.ac.jp/index.html

  • [備考] 理化学研究所 バイオリソース研究センター 遺伝工学基盤技術室

    • URL

      https://ja.brc.riken.jp/lab/kougaku/index.html

  • [備考] 1世代でES細胞由来の精子のみを持つキメラマウスを作出

    • URL

      https://mus.brc.riken.jp/ja/current_tech/oct_2020

  • [備考] Conditional surrender in one generation

    • URL

      https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33057575/

  • [備考] 体細胞クローンマウスの胎盤異常の原因を解明-胎盤の正常な形成に必要な刷り込み型マイクロRNA-

    • URL

      https://www.riken.jp/press/2020/20200501_2/index.html

URL: 

公開日: 2021-12-27  

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