研究課題/領域番号 |
19K16018
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
渡邊 朋子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (70827980)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 間葉系幹細胞 / 培養上清 / 血管新生 / 血管内皮細胞 / シグナリング / 再生医療 |
研究実績の概要 |
本研究では高い血管新生能を示す間葉系幹細胞(MSC)株で機能する分泌因子/転写因子ネットワークを解明し、高血管新生能MSCの単離/濃縮システムの開発を目指す。近年MSCを用いた血管新生/再生療法が虚血性疾患に対して治療効果を示すことが報告されており、その臨床研究が進められている。しかしながらMSCは株ごとに血管新生能が異なり、思い通りの治療成績をあげられないという課題がある。またMSCが血管新生を亢進する分子的機構についても不明な点が多く残されている。そこで本研究では1)in vitro血管新生モデルを利用しその能力が高い/低いMSC株を特定する、2)プロテオーム解析により血管新生に寄与する因子を特定する、3)非侵襲的なソーティングにより高血管新生能細胞の分離システムを確立する。以上の研究により、MSCの血管新生機構解明による新たな単離/濃縮システムの開発を目指した。
今年度の研究では、培地条件を変更することにより不完全な血管構造が形成される条件を見出し、血管内皮細胞を用いたin vitro血管新生能評価モデルを作製することに成功した。このモデルでは血管構造の回復の過程を観察出来、MSCの培養上清を添加することで、その培養上清が持つ血管新生能を評価することが出来た。このモデルを用いて複数種類のMSC株から高い/低い血管新生能を持つ細胞株を選別し、培養上清を用いたプロテオーム解析を行った。その結果、高血管新生能を持つ細胞株で特異的に発現する因子の中から、血管新生に寄与する因子を2種類同定した。現在は単離/濃縮技術の開発を見据えたより詳細なMSCによる血管新生機構の解明を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は以下の2点について主に研究を行った。(1) MSCの培養上清の持つ血管新生能を評価可能なin vitroモデルを構築した。血管内皮細胞の培養条件を検討することで、不完全な血管構造が構築される条件を見出し、MSCの培養上清を添加した際の血管構造の回復度合いから、血管新生能を評価出来る系を構築した。位相差画像から解析ソフトにより血管構造を線形化して画像解析を行い、評価の項目としては血管の全長、血管の分岐ポイント数、血管の網目構造の面積を設定して定量化した。(2) (1)のin vitro血管新生能評価モデルを用いてMSCによる血管新生に寄与する主要因子を同定した。6種類の由来の異なるMSC株の培養上清を利用して血管新生能を評価し、プロテオーム解析により発現タンパク質の比較解析を行った、その結果、高血管新生能を持つ細胞株で特異的に発現するタンパク質、あるいは細胞株の持つ血管新生能とそのタンパク質発現量の間に正の相関が見られるものの中から、血管新生に寄与する因子として2種類のシグナル関連因子を特定した。in vitro血管新生能評価モデルにおいて、同定した2種類のシグナル関連因子のリコンビナントタンパク質を添加したところ、顕著に血管新生が促進される様子が見られた。現在は高血管新生能MSCの単離/濃縮技術の開発を見据えた、2種類のシグナル関連因子による血管新生機構の解明を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は以下の研究を計画している。(1) in vitro血管新生能評価モデルを用いて同定した2種類のシグナル因子およびその関連因子について引き続き解析を行う。シグナル因子の特異的なノックダウン細胞株を作製し、その培養上清を用いて血管内皮細胞の管腔形成の促進の有無検証する。また血管新生における重要因子として知られているHIF1aやVEGFとの比較や関連性の検証も合わせて行う。 (2) 高血管新生能MSCの単離/濃縮システムの開発に向けた予備実験を開始する。細胞を1つ1つ単離し、目的抗原(高血管新生能マーカー)に対する磁気抗体を用いたセルソーティングを行い、目的因子が発現している細胞のみを選出する。選出した細胞をプレートに播種し、増殖が十分に見られたウェルを選択し、凍結ストックの作製を行う。この手法により非侵襲的な細胞濃縮法の確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた試薬類の納期が間に合わないことが判明したため。
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