エピゲノムの異常は、細胞の遺伝子発現パターンを正常状態から逸脱させることにより発がんに寄与すると考えられている。しかし、これまで子宮内膜がんの発症におけるエピゲノムの関与に関しては十分に調べられていない。我々は、がん患者から得られた遺伝子変異に関する公開データベースの解析から、子宮内膜がんではヒストンメチル化酵素であるKMT2ファミリー遺伝子群に高頻度で変異が認められることを見出した。KMT2はエンハンサーやプロモーター機能を正に制御するH3K4メチル化を行う酵素であるため、KMT2変異は様々な遺伝子の発現制御機構に重大な影響を与えると考えられる。本研究では子宮特異的KMT2欠損マウスを作製し、子宮内膜がん自然発症モデルの開発とエピゲノム異常による発がんの検証を行う。さらに作製したKMT2欠損がんのエピジェネティックな特徴付けを行うことで、がんエピゲノムの実態を明らかにしエピゲノム創薬の足がかりとする。 本年度はKmt2に関する子宮特異的ノックアウトマウス(uKO)と、Pten-floxマウスやPtenヘテロKOマウスとの交配を進め、複数の組み合わせでPten/Kmt2ダブルノックアウトマウスを樹立した。PtenヘテロKOマウスは生後4ヶ月では子宮内膜がんを発症しなかったが、Kmt2を子宮特異的にノックアウトするとがんを発症し、生体の子宮組織ではKmt2が実際にがん抑制因子として働いていることが証明された。 また宮内膜がん発症の原因を分子レベルで明確にするため、マウス子宮から上皮細胞を単離し、ヒストン修飾を解析する方法の確立を目指した。酵素による組織分解とEpCAM抗体を用いた単離システムにより、子宮上皮細胞を精度良く単離できた。さらに単離した子宮上皮細胞を用いてCUT&Tag法を実施し、H3K4me1などヒストン修飾をゲノムワイドにプロファイリングすることができた。
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