研究課題
本研究は子宮内膜の菲薄化やそれに伴う着床不全といった難治性の子宮性不妊症に対する画期的治療法の開発を目指している。申請者の過去の研究により、子宮内膜の再構築に転写因子STAT3が関わっていることが明らかとなっているが(JCI insight 2016)、本申請研究は、①子宮・子宮内膜の再生機序の解明の解明を行うと同時に、②子宮内膜におけるSTAT3の生理的機能の解析を行うこと、を具体的目標に掲げた。①に関しては、STAT3を上皮・間質特異的に欠損した遺伝子改変マウスを新規に作製し、その表現型を観察した。そして、レーザーマイクロダイセクションを用いて各マウスの上皮・間質部位特異的なサンプル採取を行い、RNA-seqによるトランスクリプトーム解析を行った。現在、得られたデータを解析中である。また、再生医療研究において有用なオルガノイド培養系を確立することも本研究の課題としていたが、申請者らの研究室において子宮内膜オルガノイドの安定的な培養プロトコルを確立することに成功した。②に関しては、前述した上皮・間質特異的STAT3欠損マウスの表現型を詳細に観察した結果、いずれのマウスも着床障害を呈することが明らかとなった。申請者はさらに上皮・間質特異的なSTAT3の機能解析を行い、部位特異的なSTAT3が異なる機序を介して子宮内膜の生理的機能を維持していることを新規に解明した。この研究成果は2020年にScentific Reportsに筆頭著者として原著採録されるに至った。
2: おおむね順調に進展している
申請者が過去に明らかにした子宮内膜再生における子宮のSTAT3の機能を基盤とし、子宮内膜上皮・間質における部位特異的なSTAT3の機能の解明について、本申請研究で一定の成果を挙げることができたものと考えている。特に、子宮内膜上皮・間質のSTAT3の生理的機能が異なっている点、そしてその制御に関わる分子学的機序を世界で初めて解明し、英文原著論文として公表するに至った点は、非常に大きな進捗であったと判断している。また、再生医療研究の基盤となる安定的なオルガノイド培養系の構築に成功したことも大きな成果と言える。一方で、脱細胞化組織などの細胞外基質で構成された担体を足場とし、担体内に播種した細胞を還流装置を用いて立体的に長期培養する実験系の樹立については難渋している。ヒト子宮再生医療を実現するには、STAT3などを介した分子メカニズムの解明が重要であると同時に、立体的な組織を培養する技術の確立も必須であると考えられるため、今後はその点を主な研究課題として重点的に取り組んでゆく必要があると考えている。
子宮内膜再生のより詳細な再生機序を明らかにするため、レーザーマイクロダイセクションを用いて子宮内膜上皮・間質特異的STAT3欠損マウスから得られた部位別サンプルのRNA-seqの解析を進めてゆく。子宮内膜再生や着床といった子宮内膜の生理的現象にSTAT3が必須であることが申請者の研究により明らかとなったが、STAT3を介した分子経路の全貌を明らかにすることで、例えば子宮内膜の再生を促す因子や胚受容能を高める分子を同定し、患者に投与することで、画期的な治療効果が得られる可能性がある。さらに、それと並行して、脱細胞化組織などの細胞外基質で構成された立体的足場の中で細胞を長期的に培養する立体培養系の構築を目指す。播種する細胞については、初代培養細胞だけでなく、幹細胞の使用も検討し、前述の解析で得られた再生促進因子の付与などによって長期的かつ安定的な培養法の確立を目指す。この培養系が樹立されれば、流産手術などにより子宮内膜に不可逆的な損傷を負った症例や、子宮の大部分を切除せざるを得ない子宮腺筋症核出後の症例に対しても、患者自身の細胞を用いた再生培養組織を部分的に補填することで妊孕能を改善できる可能性が期待される。
北里大学産婦人科学教室における助教として、基礎研究だけではなく多忙な臨床業務にも従事しており、研究課題に対する十分な結果を得るため、次年度に追加の実験を施行する必要があると判断したため。
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EMBO reports
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