研究課題
本研究はヒトに最も近縁な実験動物であるカニクイザルにおいてゲノム編集技術を応用し、げっ歯類では再現が困難であったヒト疾患を忠実に再現するための新規基盤技術の開発を目的とする。本年度では以下の研究を行った。非ヒト霊長類におけるADPKDモデルの作出:最も頻度の高い遺伝性疾患の1つである常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)はPKD1遺伝子の変異によって引き起こされる。しかしながら、げっ歯類などの小動物モデルではヒト病態を正確に再現することが困難であると過去の研究からわかっており、ヒトに近縁なカニクイザルにおける病態モデルの作出が必要とされていた。本研究ではCRISPR/Cas9法を用いることにより、カニクイザル受精卵においてPKD1遺伝子へ高効率に変異を誘導できることを示した。さらに父性ゲノムをターゲットとした片アレル特異的な変異誘導技術を開発した。これらの技術を用いることで、世界に先駆けてヒト病態を模倣するADPKDモデルカニクイザルの作出に成功した。PKD1ヘテロ接合体変異では、遠位尿細管から嚢胞形成が起きることを示し従来のマウスモデルにおける研究では成し得なかった、ヒトにおける病態の最初期の再現に成功した。さらに解析を進めることで、嚢胞形成の進行度によって嚢胞上皮細胞の由来が変化していることが示された。これらの成果は嚢胞形成や病態進行のメカニズムの理解に貢献できると考えられ、新規治療法の開発につながることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
本研究は世代交代に約5年を有するカニクイザルにおいて、F0世代で再現性ある遺伝子疾患モデルを作出する基盤技術の開発を目的としている。本年度においては、CRISPR/Cas9法を用いヒト病態を再現するADPKDモデルサルの作出を検討した。はじめにカニクイザル受精卵において導入するCRISPR/Cas9の濃度、gRNAの濃度の検討を行い、高効率に目的の変異が誘導できる条件の最適化を行った。さらに作出したPKD1ノックアウトザルを解析した結果、主に集合管において深刻な嚢胞形成が認められた。PKD1ヘテロ接合体変異では、遠位尿細管から嚢胞形成が起こることが示され、従来のマウスモデルでは再現できていなかったヒトにおける病態の最初期の再現に成功した。一方で常法によるPKD1ヘテロ接合体変異個体の作出効率は約17%であり、F0世代で再現性あるモデル作出を行うためには偶然に頼らず人為的に片アレルのみに変異を誘導する技術が求められた。そこで父性アレルに特異的なgRNAを設計しアレル特異的ターゲティングにより、ヘテロ接合体変異を持つ個体の選択的な作出法の検討を行った。その結果、約80%の効率でヘテロ接合体変異を持つ個体が得られた。また流産個体の腎臓について免疫組織化学的解析を行った結果、遠位尿細管由来の嚢胞が認められ、この種の嚢胞が最初期に現れることが再現された(Nature Communications, 2019)。
本年度の成果により、CRISPR/Cas9法をカニクイザル受精卵に適用し疾患モデルザルを作出するにあたり、アレル特異的なgRNAを設計することで、偶然に頼らずヘテロ接合体変異を持つ個体を高効率に作出することが可能であることが示された。しかしながら、より詳細な分子メカニズムの解析や表現型を再現するためには、ノックアウトによるモデル動物作製技術だけでなくGFP等のレポーター遺伝子の挿入や遺伝子置換の技術も必要不可欠である。今後は当初予定されていた研究計画に加え、CRISPR/Cas9法を応用した効率的なノックイン技術の構築にも注力する。
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Nature Communications
巻: 10 ページ: -
10.1038/s41467-019-13398-6
http://www.rcals.jp/